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ピンチをチャンスに

「ピンチをチャンスに、っていうけどさ」 立ち飲み居酒屋で、茹で蛸のように真っ赤になったおじさんが叫んでいた。 「ピンチはピンチだろうよ! チャンスじゃねえよ! だって、逆を考えてみろよ! チャンスはピンチになるか? ならねえだろ? だったら、ピン…

現代の忍者

「現代の日本に忍者はいません」 と、忍者博物館の館長が言うと、訪れた外国人観光客はそれぞれため息を漏らした。 「忍者に会えると思ったのに、と言っています。彼らは本当に忍者が好きなんですよ」 通訳の女性が館長に笑いかける。 「いや、しかし日本に…

隣の人はインド人

「隣の人がインド人だったんだよ!」 電話を取るなり、友人が息せき切ってそう言った。 「今日、初めて会ったんだけど、ホントに、マジのマジでインド人だったんだ!」 「……別にいいだろ、インド人だって」 電話で起こされた僕は、少々不機嫌にそう言った。 …

シンデレラの教訓

「何か、彼女がその日、9時以降はダメだって言い出してさあ」 「え、何だよ、それ。泊まりはナシってことか?」 「そうらしい」 「でもそんなの無視でいいんじゃねえの? どうせどうしょうもない用事だろ。みんな来るのに、一人だけ途中で抜けるなんて冷め…

漢字の成り立ち

「例えば、『道』という漢字。 これは『首』を手に、歩いて行く様子だと言われています」 先生は黒板に大きく「道」と書き、生徒たちに説明した。 それから今度は「荒」という字を書き、 「これは草原に放置された死体に、髪の毛が残っている様を表した漢字…

外弁慶

「あいつ、外弁慶だったのよ」 彼氏と別れたばかりの友人が言った。 その聞き慣れない言葉に、わたしは、 「外弁慶? 内弁慶じゃなくて?」 「そう、外弁慶」 友人はうなずいた。 「つまり、内弁慶の逆で、外では偉ぶって、家の中じゃ弱いのよ。あいつ、マザ…

こいのぼりさん

緑光る午後。 山間の村に、一年に一度の客がやって来る。 男の子の無病息災を願う、魚、こいのぼりさんだ。 「やあ、古田のおばあさん。お孫さんは幾つになりましたかね?」 「ああ、これはこいのぼりさん。ええ、有り難いことで、今年で小学生ですよ」 「そ…

お客様は神様です

「お客様は神様です!」 バックヤードにいた店長の俺に、店員がそう叫びながら駆けてきた。 「おお、元気いいな」 俺はそれに笑って答える。 お客様は神様です――そのフレーズは我が社のポリシー。 朝礼でも使われる言葉なのである。 「お客様は神様です!」 …

居酒屋でサラダを取り分ける女

〈居酒屋でサラダを取り分ける女子に対して、あなたはどう思いますか? A.気の利く子だな、と惚れる。 B.自分で取りたいので苛々する。 C.気が利くと思われたいんだろうな、と心の中で嘲笑する。 どれを選ぶかで、あなたの心がわかっちゃうかも! さあ…

男と女の見分け方

「ああ、もうそりゃあ一発よ。一発でわかる」 顔にモザイクのかかったハンチング帽の男は、これまた音声処理された声でそう言ってうなずいた。 そして、何か言いかけるインタビュアーを遮って、 「お前さん、あれだろ? 最近はゲイだか何だか知らねえが、綺…

百点満点

「これはすごい! 100点満点を通り越して、120点ですね!」 「えー、これは、みんなが120%の力を出したからこそ、上がった成果であり――」 「皆さんが頑張れば、100点が1000点に、100%が1000%になるんです!」 * 「100点満点が…

日本一暑い町

「何か馬鹿すぎるを通り越して、むかついてさえくるんだけど」 下敷きでぱたぱたと顔を仰ぎながら、女子高生が言った。 「何なの? 日本一暑い町って。マジでだから何、みたいな。暑いと何かいいことある? 観光客が増える? そんなわけないよね? 涼しいん…

パンプキン爆弾

「――あれは、ある夏の夜のことじゃった。嫌ぁな湿った風が吹いていてな……私はスーパーに寄って、夕飯の材料を買ってきたんじゃ。マカロニに牛乳、とろけるチーズ。それから……カボチャ、私はそれを丸ごと一個買ったんじゃ……」 突然、怪談口調で話し出した友人…

見上げてごらん

「ほら、見上げてごらん。夜空に光ってる星はね、実はもう死んでしまった星なんだよ」 「星も死んじゃうの? 人間みたいに?」 「そうだよ」 子供の質問に教師は答え、微笑んだ。 「けど、光がここまで届くには時間がかかるから、あれはずうっと昔に死んでし…

ドッペンゲルガー

「そういえばさ、自分とそっくりな人に3人会うと、死ぬって言うよね」 「ああ、ドッペルゲンガーね。言うね」 日本人の男女が話していると、そこへ中国人の男が、 「え? それ、3人じゃないヨ、7人だヨ」 「え、3人でしょ?」 「違う違う、7人ヨ。だっ…

幸せな寝相

「やー、うちは子供が生まれてから、川の字で眠るようになりましてね」 部下の男が、会社の上司にそう言った。 「しかし、川の字とはよく言ったもんですよね。両側の長い線が両親で、真ん中が短いのが子供を表しているわけじゃないですか。それに気づいたら…

かもしれません

「まあ、これも天気みたいなもんなんだろうし、天気に100%なんかないって、わかっちゃいるんだけどさ……」 『東京はもしかしたら雪になる――かもしれ・・・・ません・・・。名古屋も雪になる――かもしれ・・・・ません・・・』 「――かもしれません」と繰り…

30年もの

「何よ、あんたが飲んでるウイスキーだって、30年ものじゃない」 酔っ払った女上司は、入社したての若い男に文字通り絡みついた。そして、 「あたしだって30年もので飲み頃なのよ!」 「ははは……」 新入社員は苦笑いして、 「いや、『生まれてから30年…

第二ボタンは売り切れた

ここは東京都町田市にある第二ボタン屋。 JR町田駅の北口を出て道を渡った路地の先にひっそりと建つ、知る人ぞ知る店である。 そこに、一人の男子学生がやってきた。 卒業を控えているのだろうか、彼はじっと第二ボタン屋の看板を見上げる。そして、意を決…

ラーメン大盛り麺かため

「ラーメン大盛り麺かためで!」 「あいよっ、大盛り麺かため入りやぁす!」 「あいっ、大盛り麺かため!」 復唱された注文を聞いて初めて、私は今日も自分に敗北してしまったことに気づいた。 ラーメン大盛り麺かため――週に三回は来るこのラーメン屋で、そ…

気球に乗ってどこまでも

「気球に乗ってどこまで行こう~そこに何かが待っているかランランラララララララララ~ランララララララララァ~」 小学生のころ習った歌を、彼は歌いながら、しかし、その頬には涙が流れていた。 彼の乗った気球が飛ぶのは、地上から約30kmほどの上空…

定年退職の男

「おい、あの人だ」 「あの人が木村さんだろ」 「えっ、あの人が……」 「そうそう、定年で退職するっていう」 「うわ、マジか。あの人か……」 三月吉日。 最後の出勤をした木村さんに、社内ではヒソヒソ声が絶えなかった。 なぜなら、彼は定年退職の男。 波状…

踏切マン

「おーっと、そこのボク、急いでるからって遮断機をくぐったら絶対にいけないぞ? 電車に轢かれちゃうからね!」 ランドセルを背負った男の子に、白い全身タイツを着た男が言った。 「警報が鳴ってるときは渡っちゃダメなんだぞ!」 「そうだ! 危ないんだぞ…

I’m on fire

「I’m on fire!」 電話の向こうで叫ばれた声に、僕は驚いた。 I’m on fire――直訳すると、「俺に火がついている!」。 一瞬で、火だるまになった友人の姿が脳裏に浮かぶ。 「What is救急車の Ambulance番号って number…

人類が木星に着いた日

「だからね、木星はガスを主成分とする惑星であって、着くとか着かないとか、そういう話にはならないわけ、わかる? だから、もうそう聞いた瞬間、こっちは『木星に移住とかwww』ってなってるわけですよ。『ガスに移住ってどうすんのwww』みたいな。 …

忠犬ハチ公

「ええい、止めてくれるな、陽子! 俺は犬が苦手だって言ってるだろう!」 「ですけど、あなた! いくらなんでもそれは!」 玄関の前で、ある夫婦が揉めていた。 どうやら、夫が何かしようとしているのを、妻が止めようとしているらしい。 「しかし、お前も…

本当にあった! 呪いのビデオのインタビューは、なぜかいつもサイゼリア?

「おじいちゃん、『本当にあった! 呪いのビデオ』のインタビューの背景って、いつもサイゼリアだって話を、学校の友達から聞いたんだけど……それ、ホントなの?」 尋ねた孫娘に、祖父は年齢を感じさせぬ大声でハッハと笑った。 そして、 「気づかれたか。実…

幽霊になれない!

「何ですって……?」 窓口で説明を受けた私は、にわかにそれを信じることができずに呆然とした。 「私は、幽霊になることができないんですか? つ、妻や娘や……それに可愛い孫にだって『おじいちゃん、幽霊になって遊びに行くからな』って、そう言って来たんで…

築浅駅近徒歩三分

とある駅前に、築浅のマンションが建っていた。 「どうです、社長? このマンション、うちで扱っては?」 不動産会社の社員が社長に言った。 「築浅駅近徒歩四分です」 「徒歩四分?」 すると、社長は険しい顔で振り向いた。 「君、それは三分にならんのかね…

避難訓練

「これは避難訓練です、などと言ってしまうと、緊張感がなく、訓練が訓練にならないのではないかと思ってのことだったのだが……」 校長はつぶやいた。 「そうか、こういうことになるから、避難訓練は訓練だと、きちんと言ったほうがいいのだな……」 教師たちが…

憲法九条を守ろう

「憲法九条を守ろうって、最近よく聞くけどさ……」 「うん」 ニュース映像を見ながら、男が友人に言った。 「俺、不安なんだ」 「不安って、憲法九条が改正されて、戦争が起きやしないかってことか?」 「いや、そうじゃなくて」 友人の問いに男は首を振った…

プチ整形

「わー、その髪可愛い! 極楽鳥?」 「うん、極楽鳥。あ、ミーコもその爪カッコイイじゃん。豹ヒョウとか?」 「えへへー、これはね、サーベルタイガーなんだ」 「えっ、うそ! サーベルタイガー入荷したんだ?」 「限定だけどねー、知り合いがいてさ」 「い…

馬鹿につける薬

「バカにつける薬はないっていうけど、あれは何でなんだろうな? そんな薬があれば、俺たちだって利口になれるのに」 一人のバカがつぶやいた。 すると、もう一人のバカが、 「そりゃお前、決まってるだろ。バカが利口になったら、利口なやつらが困るからだ…

パナマ帽

「マジで?」 「マジなの?」 「うっそ」 「でも、マジだ……」 彼らが覗いているのは、一台のスマホの画面。 そこに書かれたパナマ帽の説明文。 「パナマ帽が……」 「パナマの帽子じゃないとか……」 「しかも、草の名前とか……」 彼らが驚くのも無理はない。 な…

RadioとTV

「壊れかけのレディオ、って気取ってますよね」 喫茶店に流れた音楽に、ふと彼が口を開いた。 「レディオ、じゃなくてラジオでしょう。ここは日本なんだから」 「そうですよね、レディオじゃなくてラジオですね。テェレビ、じゃなくてテレビだし」 そんなの…

宇宙の薬

宇宙からやってきたという、その緑色の肌をしたセールスマンはこう言った。 「この薬を飲めば、体の不調はすべて治ります。それだけではなく、頭が冴えて仕事がはかどり、アイディアもたくさん浮かぶようになります。やる気が出て、見える世界が変わります。…

言葉狩り

「ねえ、最近の小学校の運動会で『障害物競争』を『興味走』って言ってるの、知ってる?」 小学生になったばかりの子供を持つ、姉が言った。 「『障害』って言葉が、マイナスイメージというか、差別というか、そういう感じになるからなんだって! なんか言葉…

もしも私が男だったら その2

友達の紗友が背中から私に抱きついてくる。わあびっくりしたあ、そう言いながらも、 (男の人は背中におっぱいが触れると絶対わかると言うが、紗友のような貧乳でもそれは同じなんだろうか……) と思う私は、来月で二十歳。 女には感じられない柔らかさに思い…

もしも私が男だったら

お湯を止めたお風呂の蛇口をトントン、と軽く叩き、中に残ったお湯を吐き出させる。 そうしながら、 (男の人がおしっこのあと、アレを振るのってこういう感じなんだろうな……) と思う私は、来月で二十歳。 女にはできない動作に思いを馳せる、ちょっぴりう…

面白い話

「ねえ、僕って本当に北国の民族ノルディックなの?」 青い目にブロンドの坊やが聞いた。同じ目と髪の色をした母親は、 「ええ、そうよ」 優しく答える。しかし、坊やは困惑したように、 「僕のお父さんも?」 坊やの問いに、やはり母親は優しく、 「そうよ…

御子柴先生

御子柴みこしば先生は45歳。薬化学分野で有名な研究者である。 京都大学で教鞭も取る彼の授業はわかりやすいと評判で、論文は世界的な賞を取り、海外の研究者との人脈も非常に広い。 しかし、そんな御子柴先生には秘密がある。 それは―――― 「御子柴先生、…

彼の音楽を聴いた、皮肉にもカッコいい――チャールズ・マンソンが死んだなら

「……チャールズ・マンソンって、誰ですかね」 ビニール袋に入った書き置きを見て、私はつぶやいた。 「ミュージシャンですか?」 「ああ、昔のな。けど、同時にアメリカのカルト指導者であり、殺人罪で終身刑を言い渡された囚人だ」 「へえ、ナガさん、詳し…

愛妻弁当

「や、高木くん、昼は弁当かね」 「結婚したばかりだから、愛妻弁当というやつだろう。うらやましいな、こいつ」 「どれどれ、中を見せてみろ……何だ、彩りがあんまりないな」 「もっと奥さんに料理を頑張ってもらわないと」 「これじゃ、オレの作る弁当と変…

殺しちゃダメだよ

「あ、ツトム! お前、やっと連れてきたのかよ。遅かったな」 秘密基地に帰ったノボルは、呆れたような声を上げた。 「でもまあ、このためにいままで練習してきたんだもんな。いよいよ本番ってわけか」 そう言いながら、無邪気な笑みを浮かべ、ツトムの肩を…

社会主義の弱点

「人間がみんな自立していて、かつ互いを尊重できるような生き物だったら、社会主義は素晴らしいシステムだ。みんなが自分を含めたみんなのために働き、その成果を平等に分配するわけだからね」 友人は言った。 「でも社会主義は実際うまくいかなかったわけ…

初夏の味

「庭にブルーベリーがたくさんできたので、ジャムにしようと思いまぁす! それでは、まずよく熟したブルーベリーをボウルにたくさん集めまして……」 真子ちゃんは嬉しそうに紫色の実を摘むと、その一つを口の中に放り込んだ。 「んん~! 甘酸っぱくて最高の…

show must go on―final

――北海道の一部と千葉を含む世界は滅び、ゾンビの汁まみれになったものの、四次元大魔王との戦いに勝利した私たちの芝居の幕は上がり続けている。 舞台上では最後の台詞がつぶやかれたところだった。 ゾンビの残骸が飛び散り、幕のなくなった舞台袖で、私は…

show must go on―part5

――北海道の一部と千葉は滅び、ゾンビの汁まみれになった私は、四次元大魔王との対峙をしているが、芝居の幕は上がり続けている。 舞台はそろそろ終わりに近づいたころだった。 ゴオオオオ、私は劇場を飲み込もうとする四次元大魔王に抗いながら、舞台上の役…

show must go on―part4

――北海道の一部と千葉は滅び、私は舞台裏に侵入したゾンビとの戦いを続けてはいるが、芝居の幕は上がり続けている。 舞台はクライマックスを迎えていた。 私は襲いかかってくるゾンビを、かなづちとバールで倒しながら、客席の感動を感じとっていた。 幾つも…

show must go on―part3

――北海道の一部と千葉は滅び、ゾンビ化した人間たちがこの劇場に押し寄せてはいるが、芝居の幕は上がり続けている。 舞台はそろそろ後半に差しかかったころだった。 私は、ドアから侵入しようとするゾンビたちを必死で押し返しながら、舞台裏まで響く役者た…