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「ねえ、僕、ずっと不思議に思ってたんだけどさ」

 

 高い高い雲の上から地上を見下ろしていた一人の天使が、思い出したように口を開いた。

 

 彼は少し退屈していた。

 というのも、彼が並んでいるのは、神さまに会うための長い長い列の後ろのほうで、その順番は永遠に来ないように思われたのだ。

 

「へえ?」

 

 同じように退屈していたらしい、後ろの天使が聞き返した。

 

「なんだい、その、君が不思議に思ってることって」

 

「地上の人間のことさ」

 

 彼は言った。

 

「縁だの、運命の糸だの、絆だの、あれはどういう意味なんだい? 彼らにはそれが見えるみたいだけど、どんなに目を凝らしても、僕には何にも見えないんだ。一体どういうことだろう?」

 

「うーん、どれどれ?」

 

 もう一人の彼は、耳を澄ませるように目を閉じた。それから首を振る。

 

「確かに、そう言ってるのが聞こえるな。けど、君の言うとおり、僕にも何も見えないみたいだ」

 

「だろ?」

 

 同意を得て、彼は身を乗り出した。そして、地上に見える一組の男女を指した。

 

「あの二人は、神さまに縁結びのお願いをして、それから運命の糸で結ばれたらしい。そこに絆が生まれて、で――僕たちの出番らしいんだけど、その意味がとんとわからない」

 

「うん、意味がわからないね」

 

 二人が首をかしげていると、

 

「君たちにもすぐにわかるよ」

 

 すると、彼らの前に並んでいた天使がにっこりと微笑んだ。そして、ようやく見えてきた先頭を指さした。

 

 そこでは、神さまが天使たちの一人一人に、長いヒモのようなものを渡していた。そして、そのヒモを伝って、天使たちは地上へ降りていくのだった。

 

「あれがいわゆる、目に見える絆ってやつさ」

 

 笑顔のまま、天使は二人に囁いた。

 

「別名、へその緒っていうらしいけどね」

 

 ふうん――やはりよくわからないまま、二人の天使はうなずいて、それから、まだ見ぬ地上での暮らしに思いを馳せた。



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(タイトル案「絆」はYoichiさんからリクエスト頂きました。ありがとうございます)

 

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