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だから私は彼が好きだ/だから僕は彼女が好きだ

「太陽の光が、水滴によって分解されることによって多色に見える。それが虹なんだ」

 

 彼はそう言って、光に目を細めた。

 

 雨上がり。空には見事な虹が出ていて、傘を畳んだ私たちはその美しい色を眺めていた。

 

「日本では虹は七色だけど、そうじゃない国もある。アメリカは六色だっていうし、そもそも二色のしま模様だって認識してる民族も多い。実際には、連続した光のスペクトラムなわけだから、何色あるかってことは言えないんだけどね」

 

 理系の彼の言うことは、私には少し難しい。

 けれど、私があまり理解していないことを知っていても、なお、語りかけてくれる彼が私は好きだ。

 

 人は向かい合おうとしなければ、決してわかり合えることもない。

 彼はそれを知っていて、私と向き合おうとしてくれる。

 それが愛というものだと、私は思うのだ。

 

    +

 

「私ね、昔、虹に触りたいと思って、自転車で追いかけたことがあるんだ」

 

 彼女はそう言って、おかしそうに笑った。

 

 突然の雨に、一つ傘の下で窮屈に身を寄せ合っていた僕たちは、またしても唐突に晴れた空に虹を見つけて立ち止まっていた。

 

「虹の根本までたどり着いたら、そこから虹に登って、空までいけると思ってたんだ。そしたら虹の橋を渡って、向こう側まで滑り降りて。そんなことができるんじゃないかなあって思って」

 

 文系の彼女の話は、想像力が豊かすぎる。

 けど、僕が笑うのを知っていて、それでも話してくれる彼女が僕は好きだ。

 

 お互いまったく同じ考えを持っていたら、僕らは笑い合うこともできない。

 彼女はそれを知っていて、何でも話そうとしてくれる。

 それが僕が彼女との未来を考える、大切な大切な理由なのだ。

 

    +

 

 雨上がりの空に、虹が架かっていた。

 

 もう、傘の下に身を寄せ合う必要はないというのに、彼と彼女はまるで一つの影のように寄り添って歩き出した。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム