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モナコからの手紙

『ボンジュール、ヴザレビアン?

 

 ははっ、突然のフランス語で驚いたかな? 僕だよ、僕。君のケンちゃんだよ。元気してる?

 君と別れてから、もう半年も経つなんて、アンコワイヤーブル! あ、ごめんごめん、信じられないって書こうとしたんだ。

 フランス語を日常的に使ってると、書き言葉にも出ちゃうもんだね。いま初めて気づいたけど。

 え? なぜフランス語をって?

 そうそう、大学時代に一緒に取ったフランス語の授業、君のほうができたよね。

 でも、いまはたぶん違うんじゃないかな? なんたって、いま、僕がいるのはモナコ公国。そう、フランス語が主言語の国なんだ。

 え? 今度はモナコのことが気になっちゃった? いやー、悪いね、久しぶりなのにややこしいことばっかで。

 僕、実は宝くじが当たってさ。……誰にも言っちゃだめだよ――六億円。どう? すごいでしょ?

 君と別れてなかったら、間違いなく君のために使ってたんだけど……別れちゃったのはしょうがないよね。で、だからその使い道を求めて、モナコまで来ちゃったってわけ。

 モナコってすごいよ。世界一金持ちが住んでる国だからさ、もう人のレベルがヤバい。道ばた出会う人が普通に億万長者レベルだからさ。彼女と別れたばっかりだって愚痴ったら、パーティーとかにも招待してもらって……でもダメだね。君みたいな女性はもう見つかる気がしない。

 ……だから、もし、君がよかったら、なんだけど。

 もう一度、僕の元に戻ってこないかい? お金は結構使っちゃったけど、まだ贅沢に暮らせるくらいには残ってるから、今度は君のために使いたい。

 ジュテーム、ア・ラ・フォリ――狂いそうなほど君を愛してる。僕のありのままを愛してくれる君なら、お金なんかに惑わされない決断をしてくれるよね。

 それじゃ――――待ってる。

           君の田之口健吾より』



「え? 健吾? あいつ、この間、地元に帰ったってツイートしてたけど」

「そう、そんなことだろうと思ったけど……ありがと」

 私は友達との電話を切ると、無言で手紙を破り捨てた。

 宝くじを当ててモナコにいる――という、元彼からの手紙。

 まったく、彼は自分のバカさ加減に気づかないのだろうか。

 フランス語をカタカナで書き、宝くじを当てたと嘯き、だというのに保身のために金はほとんど使ったと言い訳をするバカ。モナコからの手紙だって? ふざけんな! 消印、普通に「品川」じゃねえかよ!

 紙くずと成り果てた手紙をゴミ箱に捨て、私は怒りのあまり息を切らせた。そして――これほど怒りがこみ上げるのは、宝くじの話を一瞬信じた自分がいるからだ、という事実を胸の奥底に押し込めた。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム