アタシに気づいて

 ――思えば、きっかけはあれだったのかもしれない。

 

 もしそうだとしても、俺に非はない。あるとは思えない。

 だって、みんな、気づいたらごく自然に言うもんだろ? 「前髪切った?」だなんてさ。

 だけど、俺の場合、言った相手が悪かった。あいつのスイッチを、俺が入れちまったんだ。

 いや、最初は俺も可愛いと思ってた。背がちっこくて、髪が長くて、お洒落もしてて、それで俺に気がある風だったから、こっちもまんざらじゃなかったんだ。

 可愛い子に好かれて、悪い気なんかしない。そうだろ? だから、自然と俺は彼女のことを気にするようになった。そう、前髪を切ったことに気づくくらいにはな。けど、それがいけなかった。

 あいつは俺が気づいたことに嬉しそうに真っ赤になって――次の日、後ろ髪も少し切ってきたんだ。

 切ったんだ、そう言うと、あいつはますます赤くなって――次に会ったときには……ショートヘアになってた。

 別に、俺がロングヘアが好みとか、そういう話じゃ断じてない。けど、俺は何となく気味が悪いような気がして……ショートヘアには触れなかったんだ。あいつ、気づかれないと思ったのか、少ししょんぼりしてたな。

 そしたら、次の日だ。腕に包帯が巻かれてたんだ。さすがに聞いたよ、どうしたんだよって。そしたらあいつ、真っ赤になって……その次の日には松葉杖ついてた。次の日には、首にギプスして……。

 俺もそう思ったよ、コスプレなんじゃないかって。けど、違うんだ。あいつ、車に轢かれたらしくて、その件で警察が大学まで来てて……偶然? 偶然だと思うか? じゃ、その次の日のことを話してやるよ。

 次の日、講義で俺の前に座った彼女には、指がなかった・・・・・・。どういう意味だって、その通りの意味だよ。昨日まであった指がないんだ。左手だよ。左手の小指が。

 これでもお前は偶然だっていうのか? 不幸が連続して彼女に降りかかっただけとでも? そうだよ、自意識過剰でも何でもいい、俺はそう思ってんだよ、俺に気づいて・・・・欲しくて・・・・彼女がわざとやってるんじゃないかって。

 やめろよ、行かないでくれよ。もうすぐ彼女が現れるんだ。俺がどこにいようと、この時間に必ず。

 なあ、おい、俺はどうしたらいいんだよ? 満身創痍の彼女の、またどこかが欠損してたら。今度は足の指か? 耳か? 目玉か? 想像するだけで怖いんだよ。

 ほら、来た。あそこだ。近づいてくる。今度はどこだ、どこに気づいて欲しいんだ――。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム