腹話術師

 あるところに、一人の男がいた。

 彼は腹話術師だった。しかも、完全に口を閉じたまま、会話をするという世にも稀な技術を持っていた。

 

 そんな彼に、ある記者が聞いた。

 

「あなたの芸は本当に素晴らしい。始めたきっかけは? どうしてプライベートでも腹話術で過ごすのですか?」

「その二つの質問の答えは、同じです」

 

 彼は口を閉じたまま笑うと、それからやはり口を閉じたまま、腹話術で答えた。

 

「口臭対策ですよ」

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム