桃太郎

 ここは、昔話の中の世界。

 最近、しょぼくれた様子の桃太郎を気にして、お供の犬がそっと話しかけた。

 

「桃太郎さん、桃太郎さん、どうしてそんなに悲しそうな顔をしてるんだい?」

 

「ああ、昔はよかったなと思ってさ」

 

 桃太郎は答える。

 

「昔?」

 

 今度はサルが首をかしげると、

 

「ああ、昔さ。俺たちの武勇伝を読んでくれる子供たちのことさ」

 

「まあ、昔の子供がよかった、ですって?」

 

 キジが甲高い声を上げた。

 

「おばあさんが桃を割ると、中では真っ二つになった桃太郎が死んでいました、なんて作り話をする子供たちが?」

 

「そうだよ。子供らしい、可愛げのある作り話じゃないか」

 

 桃太郎は言った。そして、ため息をついて、

 

「いまの子供たちがなんて言ってるか知ってるかい? 何でも『桃』は精力をつける食べもので、それを食べた爺さん婆さんが若者のように励んだ・・・結果、俺が産まれたってことの暗示なんだって言ってるんだぜ」

 

 それを聞いて、犬、サル、キジの三匹は黙り込んだ。

 

 いつの時代も、それが誰であったとしても、自分の両親が励む・・姿など、子供は想像したくないものなのである。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム