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父と娘 その3

「…………………」

 

 お風呂上がりの私が、テレビを楽しんでいる間、父はじっと黙り込んだままだった。

 ……と思ったが、よく耳を澄ますと、何事かをブツブツとつぶやいている。

 

「メキョ? ムキュ……ペケルバット、メキョブキュ……ムキュペケルバット、メキョムキュメケル……ペケル? バット……?」

 

「ふふ……」

 

 私は思わず含み笑いをし、テレビの中でいまも、

 

「メキョムキュペケルバット……言えた! お前のつくった無茶苦茶な造語を、俺、一回で言えたよ!」

 

 と、全身で喜びを表現するハライチの澤部さんは、岩井さんと、うちのお父さんの両方に勝利したのだ、と小さくガッツポーズをつくったのだった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム