おとななこども その1

「何やってんだあああああああああ!」

 

 稽古場に怒声が響き渡った。

 怒鳴っているのは、アバンギャルドな格好をしたダンス講師。怒られているのは、アイドルを目ざす、可愛らしい少女である。

 

 講師は彼女を親の敵であるかのように睨みつけた。

 

「いいか、ちょっと顔が可愛いくらいで調子のってんじゃねえぞ! てめえの代わりなんぞ、世の中には星の数ほどいるんだ!」

 

 あまりにきつい講師の言葉に、少女がさめざめと泣き出す。

 すると、

 

「……2000億」

 

 いつのまにか教室の隅に体育座りをしていた子供がつぶやいた。

 

「僕たちの銀河に存在する星の数だけでも2000億個。そして宇宙には1000億個以上の銀河が存在すると考えられている」

 

「お、お前は誰だ!」

 

 見知らぬ子供の出現におののく講師。

 子供は右の口角だけを上げて笑い、

 

「果たして、アイドルを目指す少女がこの世に2000億人もいるものか」

 

 そう言い残すと、ポカンとしている少女を尻目に、教室から去って行った。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム