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はじめて月に行った猫

 その瞬間を、世界が待ちわびていた。

 

 初めて月に行った猫・ルナが、猫としては初めて月面歩行に挑戦するのだ。

 

「じゃ、猫のあの可愛い肉球が月面に刻まれるってことですね!」

 

 興奮気味のレポーターに、NASAのブラウン氏は「ノー」と答えた。

 

「君、宇宙服もなしにルナを宇宙空間に放り出そうって言うのかい?」

 

 この答えに、世界は少しがっかりした。

 けれど、ブラウン氏の言うことも当然だし、宇宙服を着たからといって、ルナの偉業が消え失せるわけではない。

 

 だから、その瞬間を、変わらず世界は待ちわびていた。

 

『準備はいいかい? じゃ、ルナを離すよ』

 

 陽気な宇宙飛行士が、四つ足仕様の宇宙服を着たルナから手を離す。

 ルナはふわり、と月面に着地し、ふわん、ふわん、楽しそうに前へ進む。

 と、月面に残された足跡を見て、世界中が驚いた。

 

「こっ、これは! 猫です! 猫の肉球が、はっきりくっきりと月面に刻まれています!」

 

 興奮のあまりマイクの音量も考えず、レポーターが叫ぶ。

 

「これはどうしたことでしょう! ルナは宇宙服を着ているというのに――!」

 

 大騒ぎする皆を尻目に、宇宙服に肉球模様をデザインしたブラウン氏は、ルナに向かってばっちりとウインクを決めてみせた。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム