読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ごんぎつね

「ママ、あれ絶対ごんぎつねだったよね!」

「そうだよね、あれはごんだよ!」

「明日、栗があったら、きっとごんだね!」

「うん、ごんが柿とかもくれるかもね!」

 

 夜になって寝る時間になっても、幼い姉妹の興奮は冷めなかった。

 滅多に来ない山のおばあちゃんの家の傍で、二人は初めてキツネを見た。

 それを図書館で借りた「ごんぎつね」のキツネにそっくりだと、はしゃいでいるのである。

 

「ね、ママ、ごんを撃たないでね」

「鉄砲で撃ったら、死んじゃうからね」

 

 そんなことまで言い出す。

 

「ママは鉄砲なんか持ってないでしょ」

 

 私はそう言って二人を撫でた。

 

「ほら、たくさん遊んで疲れたんだから、もう寝るのよ。おやすみなさい」

「おやすみー」

「おやすみ」

 

 二人はすぐに眠りに落ちる。私もその隣で重いまぶたを閉じる。疲れていたせいか、あっという間に眠りに引き込まれ、まぶしい朝の光に気がつくと、娘たちは隣にいなかった。

 

「早起きね……」

 

 あくびをしながら起き出すと、縁側から窓の外を見た娘たちが、神妙な顔をしている。

 

「おはよう。……どうしたの?」

 

「あのね、ママ……」

 

 娘が窓の外を指さした。

 見ると、勝手口の前に竹のカゴが置いてある。そこからは栗や柿が覗いていて、昨日のことを思いだした私は、

 

「あ、もしかして、ごんが来たの? すごいね、やっぱりあれってごんだったんだね!」

 

 テンション高く、はしゃいみせる。

 すると、娘たちは神妙な顔つきのまま、ぶんぶんと首を振った。

 

「誰か、知らないおじさんだった……」

「ごんじゃなくて、おじさんだった……」

 

 その悲しげな様子に、私は思わずこう続けた。

 

「すごいね、ごんっておじさんに化けられるんだ!」

 

 娘たちの顔に、輝くような笑顔が戻った。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム