3分間クッキング

「先生、次こそは3分間で終わらせて下さいね?」

 

 たびたび「3分間」を越えて時間を使ってしまう料理研究家に、番組プロデューサーが皮肉を言った。

 

「生放送なんですから。困りますよ。先生の時間オーバーが、あとあとに響いてきちゃうわけですから」

 

 時間をオーバーすると言っても、たかだか一分や二分のことじゃないか。

 そんなに時間を気にするなら、料理を録画にするか、それともあの司会の無駄口を注意しろよ――料理研究家はそう思ったが、そこはぐっと堪えて謝る。

 

「はい……すいません。次からは気をつけます」

 

 ここまではいつものことなのだ。

 しかし、今日は虫の居所が悪かったのか、プロデューサーはもう一言、

 

「ったく、大した料理を作るわけでもないくせにさ」

 

 と続ける。

 

 これには、料理研究家もカチンときた。

 

 そう言うなら、明日は3分きっかりに終わらせてやろうじゃないか――彼は家に帰ると、何をしてやろうと冷蔵庫の前で腕組みをした。

 

 そして、次の日。

 

「はい、3分クッキングの時間が始まりましたぁ。アシスタントの竹野でぇす。はい、今日の東京も37度という猛暑日でしたねぇ。みなさん、オフィスではクールビズをやっていますかぁ? ネクタイを外すと、それだけで体感温度が3度は下がるんですってぇ、知ってましたかぁ――」

 

 大体、このアシスタントの挨拶がくそ長いのだ――料理研究家は減っていく時間を睨み付けながら思う。

 そして、プロデューサーはといえば、この長々しい挨拶を鼻の下を伸ばして見ているのだ。

 

 くそ、見てろよ――彼は下らないおしゃべりに耐え、とうとう、

 

「それで、先生、今日は何を?」

 

 という、くだりまでこぎ着けた。

 

「はい、今日はですね、そんな夏にぴったりの一品です」

 

 そう言うと、何もせずにそこに佇む。

 困ったアシスタントが、

 

「あのう、先生?」

 

 とお伺いを立てるように言っても、無視だ。

 そのまま、一分経過。

 二分経過。

 

 そして、さすがにざわついてきた「残り30秒」を時計が指した瞬間、彼は冷蔵庫から豆腐を取り出すと、皿にあけ、その上にちりめんじゃこをのせ、さらにチューブのしょうがとニンニクを少々を絞り出した。

 そして、呆気にとられている皆を無視して、ネギを刻み、最後に醤油とごま油を回しかける。

 

 そして、「残り5秒」の時計に微笑み、

 

「今日は暑い夏にぴったりの冷や奴でした」

 

 と、「残り0秒」で締めくくる。

 

 彼はもうこんな番組やめてやる、という意気込みでしでかしたことだったが、意外にも結果は番組プロデューサーの左遷で終わった。

 

 簡単すぎる彼の料理は、それゆえ、暑さに苦しむ人の心をくすぐり、売り場から絹豆腐が売り切れるという事態を引き起こしたからだった。

 

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