読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

礼儀正しい彼女

「俺の彼女って、いまどき、すげえ礼儀正しいんだぜ」

 

 男が友達にそう言った。

 

「例えば、人とすれ違うとき、挨拶するんだ。おはよう、とか、こんばんは、とか」

 

「へえ。いまどき珍しいね」

 

「だろ?」

 

 男は得意げに続けた。

 

「下校中の子供には『さよならー』って言うし、赤ちゃん抱いてるお母さんには『可愛いですね』とか話しかけるし」

 

「へえ」

 

「それから、中年男性には『ナイスミドル!』って声かけるし、おばあさんが困ってたら――」

 

「ちょっと待って」

 

 友達が男の話を止めた。

 

「ナイスミドル、ってなに?」

 

「何ってお前」

 

 男は失笑した。

 

「挨拶だって。礼儀正しい彼女の」

 

「礼儀正しい彼女の……」

 

「そうだよ。何かおかしいか?」

 

「何か? いや……」

 

 男はその後も彼女の自慢を続け、友達はそれをぼうっと上の空で聞いていた。

 

 ――中年男性に会ったら、「ナイスミドル!」。

 

 俺もそんな挨拶ができる男になれるだろうか、彼の胸はそんな甘酸っぱい思いでいっぱいだったのである。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム