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カメラマン入門

 大きなスーツケースを幾つも転がし、通り過ぎる人々を、雑誌社のカメラマン二人がぼんやりと眺めていた。

 新人とベテランコンビの二人が待っているのは、芸能人。

 正月休みを海外で過ごし、戻ってきたセレブたちを激写しようという雑誌の企画のため、空港でひたすら行き交う人を眺めているのだ。

 

 と、サングラスに長い髪を下ろした女が、自信に溢れた足取りで目の前を通った。

 

「……いまの人、ハワイですかね」

 

 新人が言った。

 

「ハワイだな」

 

 ベテランもうなずいた。

 

 新人にハワイ帰りを見分けるコツを教えたのは、ベテランだ。

 Rikacoっぽいグラサンを探せ、まずはそこからだ――彼はそう教えたのだ。

 どこ帰り・・・・かわかれば、芸能人を見分けるのもたやすい。これは芸能カメラマンとしての基礎の基礎なのである。

 

「あ……」

 

 すると、新人が再び声を上げた。

 

「じゃ、あの人もハワイですね」

 

 視線の先には、先ほどと同じ、グラサンに長い髪、自信ありげな雰囲気の女がいる。

 

「馬鹿野郎!」

 

 しかし、ベテランは舌打ちした。

 

「あいつの肌を見てみろ。白いだろ? 同じグラサンに長い髪でも、日に焼けてねえやつはフランス帰りだ。間違えるんじゃねえ」

 

「は、はい、フランスですね……!」

 

 取り出した手帳に、新人は懸命にメモを取った。

 彼が一人前になる日は、まだまだ遠い日のことになりそうだ。

 

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