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怖いもの

「そんな、あんた、お父さんが怖いって、昭和じゃないんだからさー」

 

「いやいや、うちのお父さん、まじ怖いんだって! 超関白なんだから!」

 

「あはは、いまどき関白って、微分積分火事親父かっての!」

 

 笑いながらそう言って――彼女は、はた、と笑うのをやめた。真顔になる。そして、

 

「あれ? あたし、いまなんつった……?」

 

「えーと、微分積分火事親父……?」

 

 友達が答えると、

 

「だよね? あれ、なんで微分積分なんて……ってか、ホントのことわざって何だっけ? 微分積分じゃなくて――」

 

「怖いものの例えでしょ? だから……いや、まあ、文系にとっては怖いけどね、微分積分

 

「うん、怖い。超怖いけどさ。でも、違うよね? 微分積分火事親父……って」

 

「あー、でもなんかやけに語呂がいい! 微分積分火事親父、微分積分火事親父」

 

「うわあ、それもう言うのやめて! マジで元が何だったかわかんなくなるから!」

 

微分積分火事親父、微分積分火事親父」

 

「うううう、やめてくれえ……ホントに、マジで思い出せなくなっちゃう……」

 

「ふふふ……微分積分火事親父、これは元のことわざを封印する呪文なのだ! 食らえっ、微分積分火事親父!」

 

「ひあああっ! もう絶対一生思い出せないいいい!」

 

 新宿駅のホームで悶絶する女子高生たち。

 その日の検索急上昇ワードに「地震雷火事親父」が入ったのは、彼女たちの仕業である。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム