おとななこども その2

「藤原ぁぁぁぁっ! お前、先生の授業の何を聞いてたぁぁぁ!」

 

 高校の教室に怒鳴り声が響き渡った。

 怒鳴っているのは、極太の筆で「教育愛」と書かれたTシャツを着た数学教師、怒鳴られているのは、数学の苦手な男子生徒。

 

 数学教師は、盾サイズの三角定規を振り回しながら、彼を睨み付けた。

 

「いいか、授業をちゃんと聞いてれば、こんな問題くらい簡単に解けるはずだぞ! お前のようなバカは幼稚園からやり直してこい!」

 

 バチィィィン、三角定規が黒板に叩きつけられる音に、男子生徒が首をすくめる。すると、

 

「幼稚園からやり直す……」

 

 いつのまにかロッカーの上に体育座りをしていた子供がつぶやいた。

 

「幼稚園は満3歳から小学校就学までの幼児を預かる施設だと、学校教育法に定められている……保育園は一歳未満の乳児も預かることができるが、小学校就学までという条件は同じ」

 

「だっ、誰だ、お前はぁっ!」

 

 見知らぬ子供の出現に、思わず叫ぶ教師。

 子供は右の口角だけを上げて笑い、

 

「果たして、17歳の高校生が幼稚園に戻れるものか」

 

 そう言い残すと、ポカンとしている教室中の生徒を尻目に、ロッカーからずるずると下りると、後ろのドアから出て行った。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム