明治の男

「ねえ、あの子の彼氏のこと、聞いた?」

 

「あ、聞いた!」

 

「大人しそうに見えて……ねえ?」

 

「やるときゃやりますよって、ことですか?」

 

「ホントだよね。だってあれでしょ、あの子の彼氏って……」

 

「そうそう。明治の男」

 

「ね、明治の男」

 

「やるよねえ」

 

「いやあ、あたしには絶対無理だわ。できない」

 

「そりゃ禁止なわけじゃないかもだけど、すごいよねえ」

 

「ねえ、明治の男なんて――」

 

「しっ、あの子、来たよ!」

 

   *

 

 そそくさと仕事に戻る女の子たちを見て、私は彼女たちが何を話していたのか、聞かなくともわかった。

 

 いや、そうでなくとも、社内は私の噂で持ちきりだ。

 私が付き合い始めた男の噂で。

 

 まあ、しかしそれも仕方あるまい――私はため息をついて席に着いた。

 

 だって、私の彼氏は明治の男。

 

 そして、当の私は、森永の女なのだ――。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム