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相談窓口

 その白いプレートには、ただ一言、「相談窓口」と書かれていた。

 何の相談窓口なのかは、どこを見ても記されていない。

 

「あのう……ここはどんな相談を受けつけてるんでしょうか?」

 

 ある日、小太りの中年男性が勇気を出して中の女性に尋ねた。

 すると、その真面目な顔をした女性は、

 

ボリビアあります、ウユニ塩湖についての相談しか受けつけておりません」

 

「ウユニ……?」

 

 男性は首をかしげて、おずおずと、

 

「あのう、うちの妻が恐妻で、五千円の小遣いが今月から五百円減らされたという相談なんかは……」

 

「ウユニ塩湖についての相談だけです」

 

 女性はきっぱりというと、首を振る。男性はがっくりと肩を落とし、

 

「じゃあ……ウユニ塩湖では何ができるんでしょうか」

 

 そう聞くと、女性はにっこりと笑って、

 

「はい。ウユニ塩湖は世界中からの観光客の皆様に愛されておりまして、塩湖中央には絶景のホテルもございます。ホテルは壁もテーブルもベッドも、塩湖から切り出した塩のブロックでできておりまして、それは好評をいただいております。また、魚島という島がございまして、そこにはサボテンしか生えておりません。塩湖の真っ白な風景の中に、サボテンが生えている様は、まさに奇景と言ってよく――」

 

 流暢な台詞に困惑した男性が、

 

「あの、やっぱり僕、そういうのには興味がないんで、うちの妻の相談は……」

 

 と言いかけると、女性は無表情に戻り、ピタリと口を閉じる。

 仕方なく男性は、知りたくもないウユニ塩湖について、あれこれと相談する羽目になったのだった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム