奇遇ですね!

「コミュニケーションがすべての鍵である」

 

 壇上の男はそう言い切った。

 

「ですから、私はあなたがたに魔法の言葉を教えましょう。『奇遇ですね!』。はい、繰り返して」

 

「奇遇ですね!」

 

 会場に集まった男たちか応える。

 壇上の男は、

 

「声が小さい! コミュニケーションは元気よく明るく、これがすべてです。では、もう一度。『奇遇ですね!』」

 

「奇遇ですね!」

 

 今度はより大きい声で男たちが言う。

 

「そうです。いいですね。もう一度、練習しましょう。『奇遇ですね!』」

 

「奇遇ですね!」

 

「もう一度、『奇遇ですね!』」

 

「奇遇ですね!」

 

 大勢の男たちと一緒になって叫びながら、僕は本当にこんなことでうまくいくのかと疑念を抱いていた。

 だって、駅で、学校で、帰り道で、トイレの前で、塾の前で、家の前で、それに窓越しに目が合ったときに、「奇遇ですね!」、こんな一言で本当に彼女は僕をストーカーがいます、と警察に通報しなくなるのか、それがほんの少し、不安だったのである。

 

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