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ガラスの靴

「舞踏会に行けないシンデレラを憐れに思った魔法使いは、魔法でみすぼらしい服を立派なドレスに変え、靴を透明プラスチックの靴に変え、カボチャを馬車に、それからネズミを御者に――」

 

「先生、先生! それ、違うよ!」

 

 と、それまで大人しく話を聞いていた女の子が手を上げた。

 

「靴はプラスチックじゃなくて、ガラスだよ。ガラスの靴にしたんだよ。あたし、ママからそう聞いたもん」

 

「ええ、お家ではそれでいいんだけどね?」

 

 幼稚園の先生はうなずいて、それから首を振った。

 

「でも、みんな。ガラスはどういうものか知ってるかな? 割れやすくて、危ないものだよね? じゃ、硝子で靴を作ったらどうなるか、わかるかな?」

 

「えーっと、割れる!」

 

 別の子が答える。先生は優しく、

 

「そうね。割れたら、足に刺さって怪我しちゃうでしょう? だから、ガラスの靴はだめ。幼稚園でそう教えて誰かが怪我したら、先生たちの責任になっちゃうからね?」

 

 園児たちにその言葉の意味は難しすぎただろう。しかし、彼らは元気よく「はーい」と返事をした。

 なぜなら、彼らも現代っ子。

 自分たちの行動によって、いかに先生たちが窮地に立たされているか、幼いなりにも理解しているのである。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム