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算数の問題

「次の文章を読んで答えなさい。

 

 明くんは、八百屋さんにお使いに行きました。そして、1つ30円のリンゴを2つと、1つ20円のみかんを3つ買いました。

『明くん、お使いなんてえらいね。えらいから、みかん3つはタダにしてあげるよ』

 八百屋のご主人が言いました。

 しかし、『えらいから』というのはただの言い訳で、明くんは実は八百屋さんの隠し子だったのです。

『ありがとう、おじさん』

 事情を知らない明くんは素直に喜び、お母さんに持たされたお金を出そうとしました。

 しかし、タイミング悪く、八百屋のご主人に電話がかかってきて、代わりに八百屋の奥さんが出てきました。

 この奥さんはとてもきつい人で、その上、とても鼻がきく女性でした。

 だから、ご主人はバレてないと思っていた隠し子・明くんのことも、奥さんはお見通しだったのです。

『リンゴ2つに……みかん3つはタダだったわね』

 奥さんはにこりともせずそう言うと、明くんに手のひらを差し出しました。

 

 さて、明くんはいくらお金を払えばいいでしょう。式と答えを書きなさい」

 

       *

 

「最近の先生は、難しい問題を出すんだねえ」

 俺は顔を引きつらせて、問題用紙を明子ちゃんに返した。

 自宅で塾を開いている俺の家には、近所の子供たちがたくさん通っている。明子ちゃんはそのうちの一人だ。

 俺は努めて笑顔で問題を指した。

「でもほら、これは算数の問題だろ? 明くんは30円のリンゴを2つ買ったんだから、いくらになる? 30円に30円を足すから……」

 すると、明子ちゃんはあどけない顔で俺を見上げ、

「ねえ上原先生、隠し子ってなあに?」

 と聞いた。

「え? あ、ああ、隠し子っていうのは……」

 俺は答えを模索しながら、内心では冷や汗が止まらなかった。

 というもの、明子ちゃんの「先生」は、俺の妻。

 そして、俺は何年も前から、明子ちゃんの母親と関係を持っていたのだ――。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム