フィンランドの春

 長い冬が明け、訪れた春の日差しに、人々は裸で日光浴を楽しむ。

 乙女は森の泉で水浴びをし、男たちは岸辺でビールを飲み、目に見えない妖精たちが木々の間を楽しげに飛び回る。

 それがフィンランドの春。

 冬を耐えた喜びが町中に弾ける、北欧の春――。



 一体、そんなイメージはどこから湧きだし、まるで事実のように頭の中にあったのだろう――フィンランドの玄関口、ヘルシンキ空港に降り立った彼は、目の前の雪を見ながら静かに思った。

 よく考えれば、北海道でさえ4月は雪が残っているのだ。

 

 イメージにあったフィンランドの春は、フィンランドの夏か――半袖シャツでくしゃみをしながら、後藤哲夫60歳はいま、途方に暮れていた――。

 

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