成長ホルモン

「――――カルビ二皿と、タン三皿と、それから成長ホルモン下さい」

 

 育ち盛りの子供を5人も連れた父親の注文に、店長は笑顔で、

 

「すいません、成長ホルモンは当店で扱ってないんですよ」

 

「え? そうなの? 困ったな、じゃあ普通のホルモンで」

 

「はい、かしこまりました」

 

 メニューを下げた店長が厨房に戻ってくる。

 この焼き肉店でバイトを始めたばかりの私は、思わず、

 

「成長ホルモンって、食べものじゃない……っていうか、男性ホルモンとか女性ホルモンみたいに、体内で分泌されるものですよね?」

 

「そうだけど」

 

 すると、店長はやはり笑顔で、

 

「でも、取り扱ってないのは本当だし、そう言って引き下がってくれるんだから、全然いいお客さんじゃない」

 

 そう言って、今日も私に客商売の恐ろしさというものを優しく教えてくれたのだった。

 

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