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托卵

 カッコウオオヨシキリの巣に卵を産み落とし、育ててもらう――いわゆる托卵たくらんをすることは、よく知られた事実である。

 

 そして、ここにも一羽、オオヨシキリに托卵をしたカッコウの母親がいた。

 

 彼女はうきうきと空を飛んでいた。

 というのも、そろそろ彼女が托卵した可愛い我が子の巣立ちの日がやって来るはずだからである。

 

「あの子は立派なカッコウになったかしら?」

 

 母親は巣の傍の木に止まり、我が子を探した。

 

 すると、立派に大きくなった青年カッコウが、いま、まさに空に飛んでいこうとしているところだった。

 

「まあ、まあ、立派になって!」

 

 母カッコウは息子の凜々しい姿に感動して叫んだ。

 

「ほら、もっと良く顔を見せてちょうだい。ああ、本当に立派になったわ。目は私に、くちばしはお父さんにそっくり」

 

「おばさん、誰?」

 

 すると、青年カッコウは母カッコウを睨んだ。母カッコウは慌てて、

 

「そんな顔しないで。私はあなたのお母さんよ。卵だったあなたを生んだのは私なんだから」

 

 しかし、青年カッコウは、

 

「何言ってんだい、おばさん。僕のお母さんはこっちだよ」

 

 隣のオオヨシキリをくちばしで指した。そして、母カッコウが何か言いかけるのを制するように、

 

「僕はお母さんにエサをもらって、世話してもらって、ここまで大きくなったんだ。おばさんのことなんか知らないよ」

 

 そう言って、オオヨシキリと共に空へ飛んでいき、母カッコウは呆然とその後ろ姿を見送った。



 ―――とまあ、物語はそう言うが、カッコウカッコウオオヨシキリにはなれないし、鳥たちが育ててもらった恩を感じているかどうかはわからない。

 

 けれど、私たちは鳥ではない、人間だ。

 

 だからこそ、生みの親より育ての親、その言葉の大切さをよく噛み締めるべきなのである。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム