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シーチキン、缶詰辞めるってよ

 静かな広い空間に、彼はじっと佇んでいた。

 

 ここは彼が工場長をしている缶詰工場。いや、缶詰工場だった、と言うべきか。

 古いがきれいに磨かれた機械は、いまはもう動いていない。

 長らく保存食品の手段として栄華を誇ってきた缶詰は、いまや、そのほとんどがパウチ方式に変わってしまった。

 ホールトマトの缶詰に、白桃、ミカンのフルーツ缶、過去には調理済みの食品の缶詰――焼き鳥缶やサバやいわしの煮付け缶詰なんてものも存在した。

 

 けれど、それはもう過去の栄光。

 

 有限である資源を使い、環境に負担をかける缶詰は徐々に減り、ついに2116年6月30日の今日を以て、今後、一切の製造を禁じられた。

 

 つまり、この缶詰工場はもう二度と稼働することがない。

 昨日つくられた缶詰が、世界最後の缶詰だったのだ。

 

 目に焼きつけるように自動缶詰機を見つめていた彼は、取り出し口に残された、最後の一缶に手を伸ばした。

 

 トマトにフルーツ、サバにいわし、それらが次々に缶詰であることを辞めていく中、それは最後まで缶詰の王者であり続けたシーチキン缶だった。

 

「お前も、缶詰じゃなくなるのか」

 

 彼はつぶやき――踵を返すと、静かに工場を後にした。

 

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(タイトルはakuyaネコ型猫様にご提案いただきました。ありがとうございます。引き続きタイトル案募集中です)

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム