犬の言葉がわかる男 その2

「へっへっへ……ネエちゃん、ええ乳しとるのう……ワイを包み込むこの谷間の柔らかさ、たまらんで! 嫌よ嫌よも好きのうち、力ぁ抜いて、ワイにすべてを任せんかい!」

 

「なにをするっ! このド変態がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 白昼堂々、目の前で起こったセクハラに、男は思わず言葉の主を突き飛ばした。

 

「お前のような変態が、彼女と付き合う資格はない!」

 

「ちょっと、何するんですか!」

 

 と、助けたはずの女子大生が、男をキッと睨みつけた。そして、彼女の腕から落ちてしまったチワワに、

 

「大丈夫? 怖かったねえ、怖い人だねえ」

 

 猫なで声で言うと、もう一度男を睨んで去って行く。

 

「あ、違うんだ、そいつは、そのチワワは君のおっぱいを楽しむド変態で……!」

 

 その後ろ姿に叫びながら、男は駆け出し――つまずいて無残にも地面に這いつくばった。

 事の成り行きを見守っていた人々の、くすくすという笑い声が空から降る。

 

「ねえ、あの人おかしいよ」

「変態って、自分が変態じゃんねえ」

 

「くっ……」

 

 男は地面に伏したまま、こぶしを握り、心ない声に耐えた。

 

 板橋好夫いたばしよしお46歳。

 

 幸か不幸か、彼は犬の言葉がわかる男なのである――――。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム