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正しいレビューの書き方

「あれ? 杏奈、それ何してるの?」

 

「あ、これ? 実はバイト始めたんだー」

 

「え? スマホいじってるだけじゃなくて?」

 

「実は違うんだな、これが。メールで指定されたサイトを開いて……っと」

 

「新しくオープンした美容院のサイト? これ、どうするの?」

 

「ここにレビューを書き込むの! そしたら、書き込み数に応じてバイト代がもらえるの。簡単でしょ?」

 

「でもさ、杏奈、この美容院行ってないじゃん。それなのに、いいの?」

 

「まあ、そこがミソなんだけど……実際、レビューには『行った』とは書かないわけ。サイトでお店の雰囲気とか見て、『すごいいいところですね!』とか、行った風のことを書くっていうか。それなら、嘘じゃないでしょ?」

 

「たしかにねー。え、でもそんなことでお金がもらえるなら、私もやりたいなあ。紹介してくれる?」

 

「いいよー、もちろん。じゃ、いまからアドレス送るね――――」

 

   *

 

 たまたま入った喫茶店で、そんな女子高生たちの会話を聞いた私はため息をついた。

 

 あの杏奈という子は、嘘を書いているわけじゃない、と言っていたけれど、あれは人としてやっちゃいけないことだろう。一体、彼女たちは良心が咎めるということがないのだろうか。

 

 そんなことを思いながら、私はスマホを操り、「このプリンはリピート決定!」とレビューサイトに書き込んだ。

 

 この通販で買ったプリンを、まだ私は食べていない。けれど、この商品は購入一週間以内にレビューすると50円キャッシュバックされるというサービスがついており、私は忘れないうちに、とレビューを書き込んだのだ。

 

 一瞬、女子高生たちの会話が脳裏をよぎるが、私と彼女たちがやっていることは根本的に違う。

 

 だって、彼女たちはその美容院に行かなくても、私は実際プリンを食べるのだし、それならレビューなんていま書いてもあとで書いても同じようなものだ。

 

 だから、私は嘘はついていない。

 

 女子高生のいなくなった席にちらりと視線をやり、私は「送信」ボタンを押した。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム