モンブラン

「え? モンブランって、栗のケーキでしょ? あのグルグルが巻きグソみたいになってる……」

 

 そう返したガールフレンドに、男は、

 

「君とはもう付き合っていける気がしない」

 

 と言い、店を飛び出していった。

 

「え? ごめん、ケーキの話じゃなかったの?!」

 

 女性は叫びながらその後を追いかけて、店を出る。私は彼らのために取り出した高級時計を、再びショーケースの中に仕舞った。

 

 この店の名前は「モンブラン」。

 

 アルプス最高峰であるモンブランをからその名を取った、高級時計や万年筆を扱うブランドショップだ。

 

 有名な話ではあるが、ケーキのモンブランも、その山の名からつけられたもので、その美しく誇り高い山を形にしたものなのだ。

 

 まったく、そんなことも知らないとは――私はあの男に同情して、そっとため息をついた。

 

 男女が付き合う上で、知識レベルが同じであることは、とても大切な要素であろう。

 

 それとも……私は今度は小さく肩をすくめた。

 

 彼が彼女に愛想を尽かしたのは、「モンブラン」を知らないということではなく、もっと低レベルなこと――つまり、公衆の面前で「巻きグソ」などという単語を発するような神経を疑ったからなのかもしれなかった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム