真のグルメ

「諸君らは、これより立派な海上自衛隊の一員である!」

 

 幕僚長の宣言から五日後、ようやく訪れた機会に、僕たちは興奮を隠しきれなかった。

 

「なあ、わかってるか? 今日だぞ」

 

「ああ、わかってるさ。今日だよ」

 

「いよいよだな」

 

「いよいよだ」

 

「覚悟はいいか?」

 

「もちろん、この日のために俺たちは『部屋』を出て、海上自衛隊に入ったんだろ?」

 

「そうだ。この日のために、相撲を辞め、あの自衛隊学校へ入学し、つらい訓練をこなしたんだ」

 

「ようやく、だな」

 

「ああ、ようやくだ……ふふふ」

 

「何がおかしい?」

 

「いや、すまない。日本中にグルメを気取るやつはいるが、俺たちこそが真のグルメだと思ってな」

 

「ふふふ……確かにその通りだな」

 

「ふふふ……本当にな」



 その日――入隊して初めての金曜日、俺たちは晴れて海自カレーを食すことができた。

 

 ただの鍋でも、お相撲さんがつくって食べれば「ちゃんこ鍋」と呼ばれるように、「海自カレー」も海上自衛隊員が食べなければ、「海自カレー」ではない。

 

 そのあたりの喫茶店やレストランで出している「海自カレー」は、真の意味での「海自カレー」ではないのだ。



「ちゃんこ鍋も食ったし、海自カレーも食った。友よ、次はどうする?」

 

 その夜、一つの目的を達成した僕たちは、次なる目標を話し合った。

 

「……簡単なのはロケ弁だな。タレントにはなれなくても、テレビ局のスタッフになれば食べられる。しかし――」

 

「やりがいがないな」

 

「そうなんだ。けど、やりがいを求めるなら、前にも言ったが……」

 

宇宙食か。宇宙飛行士になって、本物の宇宙食を食べる……惹かれるな」

 

「ああ、グルメ最大の憧れと言っていいだろう。もう少しランクを落とせば、国会議員だな」

 

「議員食堂のランチか……難易度的には最適かもしれん」

 

「けど、宇宙食も捨てがたい――だろ?」

 

 僕が笑うと、友人も笑った。そして、

 

「夢はでっかく行こうぜ。俺たちはまず宇宙食を食べる。それから、議員食堂でランチをする!」

 

「議員は年を取ってからでもいけるからな」

 

「そういうことだ。……どうする? 乗るか? 友よ」

 

「……もちろん、乗るさ!」

 

 突き出されたこぶしに、こぶしをぶつける。

 

 真のグルメを追求する僕らの旅は、まだ始まったばかりだった。

 

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