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show must go on―part4

 ――北海道の一部と千葉は滅び、私は舞台裏に侵入したゾンビとの戦いを続けてはいるが、芝居の幕は上がり続けている。

 

 舞台はクライマックスを迎えていた。

 

 私は襲いかかってくるゾンビを、かなづちとバールで倒しながら、客席の感動を感じとっていた。

 幾つもの伏線が重なり合い、導かれたクライマックスに、誰が涙せずにいられるだろう。

 

 この芝居は「劇団櫂船かいぶね」が贈る、最高傑作。

 

 たとえ、親の死に目に会えなくても、この芝居を最後まで演じることが、役者の使命。

 そして、舞台監督である私の使命は、この芝居の幕を最後まで上げ続けることなのだ――。

 

 ギャアアッ、最後の一体を倒し終えると、私は舞台袖に走り、芝居が滞りなく続いていることに安堵した。

 

 体中がゾンビの汁でべとついている。

 あの受付スタッフと同じように、私もそのうちゾンビに変わってしまうのだろうか?

 

「いや、この芝居が終わるまでは、ゾンビになんかなれるものか……!」

 

 私がこぶしを握りしめたときだった。

 舞台照明がチカチカと予定外の明滅をした。

 

 胸騒ぎがし、照明オペレーターのほうを見ると、彼はなぜか驚いたような表情で客席の天井を指さしている。

 

「どうしたんだ!」

 

 オペ室へ走り、声を押し殺して尋ねると、

 

舞台監督ブカンさん……あ、あれは……」

 

 オペレーターの視線をたどると、客席の上の空間が微かに揺れている。

 そして、それは突然ぐにゃりと曲がり、中から大きく真っ赤な口が現れた。

 

「我が名は四次元大魔王……この世界のすべてを四次元の彼方へ葬ってやろう……!」

 

 と、四次元大魔王を名乗る輩が言い終わらないうちに、私は音響のオペレーターに指示し、舞台の音楽を上げさせる。

 

 大きくなった音量で、どうやら客は何も気づかなかったようだ。

 よかった――私は安堵しながらも、歪んだ空間に現れた「四次元大魔王」を睨みつける。

 

「北海道や千葉が滅びたのは、あいつのせいか……!」

 

「え? 北海道と千葉が滅びた?!」

 

 照明と音響のオペレーターが同時に声を上げるが、私は意にも介さない。

 なぜなら、私の頭にあることは一つだけ。

 

 そして、それは例え四次元大魔王に邪魔されようとも、未来永劫変わることがない。



 The show must go on――たとえ四次元大魔王が世界を飲み込もうとも、芝居の幕は決して下ろしてはならないのだ――――

 

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