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殺しちゃダメだよ

「あ、ツトム! お前、やっと連れてきたのかよ。遅かったな」

 

 秘密基地に帰ったノボルは、呆れたような声を上げた。

 

「でもまあ、このためにいままで練習してきたんだもんな。いよいよ本番ってわけか」

 

 そう言いながら、無邪気な笑みを浮かべ、ツトムの肩を叩く。

 緊張した様子のツトムは、ノボルの笑顔を見て、やっと人心地ついたようだった。

 

「で、いつやる?」

 

 ノボルの問いに、

 

「えっと、あ、明日……かな」

 

 ツトムは答え、慌てたように付け足す。

 

「だけど、これは僕のだからね? 本当に本当に僕のだから、ミッちゃんやユウジにもちゃんと言っておいてね」

 

「わかってるよ」

 

「本当の本当にだよ? ユウジはいつもやらないっていって、やっちゃうんだから」

 

「いや、今度ばっかりは、あいつもわかってるって。こいつ、お前の実の親父さんだもんな」

 

 廃墟と化した団地の四階。その狭いバスルーム。

 縛られ、ガムテープで口をふさがれた中年男が、この期に及んで何とかなるとでも思っているのだろうか、怒ったようにフガフガ言い、もがいている。

 

「……うん、そうだよ。僕のお父さんだからね。だから、絶対に殺しちゃダメだよ」

 

 ツトムは言うと、腕をまくり上げ、そこに広がった火傷の跡を男に見せた。

 それから、背中の傷跡を、奇妙に曲がった足を、爪の生えていない指を見せつけた。そして、

 

「ね、僕と同じ苦しみを味わわせるまでは、殺しちゃダメ」

 

「うん、殺しちゃダメだ」

 

 少年たちの冷たい目に、男は一層もがきはじめた。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム