言葉狩り

「ねえ、最近の小学校の運動会で『障害物競争』を『興味走』って言ってるの、知ってる?」

 

 小学生になったばかりの子供を持つ、姉が言った。

 

「『障害』って言葉が、マイナスイメージというか、差別というか、そういう感じになるからなんだって! なんか言葉狩りもここに極めり、って感じだよねえ」

 

「へえ、そうなんだ。何かすごいね」

 

 私がうなずくと、会話を聞いていた母が、

 

「そんなことより、コール天よ!」

 

 と、突然叫んだ。私と姉がぽかんとしていると、

 

「コール天……コール天って、あんたたち知ってるでしょ?! 冬に履くズボンとかで、ちょっとふわふわ厚い生地で、『コール天のズボン履いて行きなさい』なんて言われると、ああもう冬かあ、なんて思ったものなのよ? けど! いま! コール天って言わないでしょ、あんたたち!」

 

「あー……言わないね」

 

コーデュロイって言うかな……」

 

 私たちが顔を見合わせると、

 

「そうでしょ!」

 

 母親はキイイ、と頭を抱えた。

 

「私、コール天って語感が大好きだったのに! コール天! コーデュロイのズボンじゃなくて、コール天のズボンが履きたい! それなのに!」

 

 少しの沈黙。息を切らせる母親に、

 

「……あのさ、追い打ちかけるようでなんだけど」

 

 姉がつぶやいた。

 

「いまは、『ズボン』じゃなくて、『パンツ』だよね……」

 

 ――母親がこのあと、「パンツゥゥゥゥ……!」と絶叫したのは、みなさんの想像に難くないところである。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム