避難訓練

「これは避難訓練です、などと言ってしまうと、緊張感がなく、訓練が訓練にならないのではないかと思ってのことだったのだが……」

 

 校長はつぶやいた。

 

「そうか、こういうことになるから、避難訓練は訓練だと、きちんと言ったほうがいいのだな……」

 

 教師たちが我先にと逃げだし、残された児童たちがパニックのあまり怪我をする。そして、誰が外部に連絡を取ったのか、学校に消防と救急車、それに警察が乗りつけ、地域住民からの事実確認の電話は鳴り止まない。

 

「私はただ、緊張感を持って校庭に集まって欲しかっただけなのに……」

 

 頭を抱えた校長の発言は、その夜のニュースで、「――などと供述をしており」という文言付きで、全国に放送されたのだった。

 

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