築浅駅近徒歩三分

 とある駅前に、築浅のマンションが建っていた。

「どうです、社長? このマンション、うちで扱っては?」

 不動産会社の社員が社長に言った。

「築浅駅近徒歩四分です」

「徒歩四分?」

 すると、社長は険しい顔で振り向いた。

「君、それは三分にならんのかね、三分に。徒歩四分と徒歩三分では、賃料が段違いになるのだぞ」

「なるのだぞ、と言われましても……」

 社員は頭を掻いて、

「徒歩一分は80メートルと決まっておりまして、ここは駅から240メートル以上ありますので……」

「……仕方がないな」

 すると、社長は目を閉じ、手を計測器にかざして、

「築浅駅近徒歩三分、築浅駅近徒歩三分、築浅駅近徒歩三分……」

 と、唱えだした。そして、

「さあ、もう一度測ってみなさい」

 と言う。

 そんなことで距離が変わるものか、と社員は思ったが――どうだろう。
 何と距離は240メートルきっかりになってるではないか!

 かくして、築浅駅近徒歩四分の物件は、築浅駅近徒歩三分になったのだった――。

   *

「っていう話を先に聞いてたら、こんな不動産会社に入らなかったんだけど」

 昼休憩の時間、私は新人の女の子にそんな愚痴をこぼした。

「え? 何でですかあ? あ……佐川さん、霊感とか嫌いなタイプなんですか?」

「そうじゃないよ」

 まだこの会社の闇の部分を知らないその子に、私はため息をついた。

「大きな声じゃ言えないけど、うちの会社、バックにヤクザがいるらしくてさ……つまり、計測器をいじって四分を三分にした、それが可愛いおとぎ話みたいになっちゃってるほど黒いことやってるんだよってこと」

「え? 社長が本当に魔法使いだったんじゃないんですかあ?」

「いや、まあ、そう思ってたほうが幸せかもね」

 首をかしげる女の子に苦笑いして、私は休憩を終えたのだった。

 

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