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定年退職の男

「おい、あの人だ」

「あの人が木村さんだろ」

「えっ、あの人が……」

「そうそう、定年で退職するっていう」

「うわ、マジか。あの人か……」



 三月吉日。

 最後の出勤をした木村さんに、社内ではヒソヒソ声が絶えなかった。

 

 なぜなら、彼は定年退職の男。

 

 波状的リストラにも耐え、早期退職にも応じず、日に日に正社員が減って派遣とフリーターだけになっていくこの会社で、もしかしたら最後の定年退職者となるのかもしれない男だったのだ――。

 

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