ラーメン大盛り麺かため

「ラーメン大盛り麺かためで!」

 

「あいよっ、大盛り麺かため入りやぁす!」

「あいっ、大盛り麺かため!」

 

 復唱された注文を聞いて初めて、私は今日も自分に敗北してしまったことに気づいた。

 

 ラーメン大盛り麺かため――週に三回は来るこのラーメン屋で、それは私のお決まりの注文になっている。

 

 しかし、違うのだ。

 私は決して「ラーメン大盛り麺かため」を食べたいわけではない。

 否、むしろ私の好みはその逆。

 男にしては胃が小さめの私は、麺は並み盛りで十分で、ゆで加減は柔らかめが好きなのだ。

 

 だというのに――。

 

「あいっ、ラーメン大盛り麺かため、お待ちぃっ!」

 

 目の前に勢いよく置かれた大盛りを見ただけで、私の胃が重くなる。

 さっきまでの食欲は失せ、もうこのまま箸をつけずに店を出てしまおうか、という考えさえ頭をよぎる。

 しかし、私はぐっと衝動を抑え、麺をたぐることだけに集中した。

 

(今度こそ、次回こそ「ラーメン並み盛り麺柔らかめ」と注文するぞ……)

 

 柔らかめ好きには生煮えにしか思えない麺を噛みながら、私はそう胸に誓った。

 しかし、私は同時に、そんな注文をすることは不可能であるだろうことを予感して止まなかった。

 

 なぜなら、

 

「ラーメン大盛り麺かため!」

 

 という注文の語呂の良さ。

 

 俺はラーメンが好きだ、と宣言するかのようなその台詞を口にしたときの震えるような快感こそが、私がラーメン屋に足を運ぶ理由に他ならないからであった。

 

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