第二ボタンは売り切れた

 ここは東京都町田市にある第二ボタン屋。
 JR町田駅の北口を出て道を渡った路地の先にひっそりと建つ、知る人ぞ知る店である。
 

 そこに、一人の男子学生がやってきた。
 卒業を控えているのだろうか、彼はじっと第二ボタン屋の看板を見上げる。そして、意を決したように入っていく。

「すみません! 第二ボタン、一つ!」

 入店するなり、叫ぶ学生。店主は残念そうに、

「ああ、お客さんすいません。第二ボタンはたったいま売り切れて……」

「な、何だって? 畜生、誰かに好かれてる自覚は無いが、それでも念のために買っておこうと思ったのに……!」

 崩れ落ちた男子学生がこぶしを床にたたきつける。
 と、ちょうどレジを終えた学生が振り向き――男子学生はあごが外れるほど驚いた。

「お、お前は……二年の佐久間……!」

「あ、先輩だったんすか……ちょりーっす」

 イケメンの後輩が両手に第二ボタンの詰まった袋を抱えて挨拶する。

「ちょりーっすじゃねえよ! お前、二年だろ! 何で第二ボタンなんか……!」

「いやあ、俺くらいモテると、卒業しなくても第二ボタンくれって女が多くて。こっちは困ってるんすよねえ」

「何……だと……?!」

 自らには決して訪れない事態に激高し、後輩に殴りかかる男子学生。

「先輩、ちょっ、ちょっと、やめてくださいよ!」

「お前のようなやつがいるから! お前のようなやつがいるから!」

「痛っ、せ、先輩は第二ボタン買わなくても大丈夫っすよ! 俺の情報によると、先輩の第二ボタン欲しいって女はゼロですから……痛っ、マジで痛いっす!」


 ――その後、店主が呼んだ警察により、男子学生は御用となった。
 「第二ボタン屋なんか潰れればいい」、それが彼が口にした唯一の供述だったという――。

 

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