パンプキン爆弾

「――あれは、ある夏の夜のことじゃった。嫌ぁな湿った風が吹いていてな……私はスーパーに寄って、夕飯の材料を買ってきたんじゃ。マカロニに牛乳、とろけるチーズ。それから……カボチャ、私はそれを丸ごと一個買ったんじゃ……」

 突然、怪談口調で話し出した友人に、私はごくりと息を呑んだ。
 友人は薄気味悪い笑みを浮かべて、

「ほら、ちょうどいまのあんたと同じじゃろう? カボチャを丸々一個使った、カボチャのグラタン。三分クッキングで見たのかな? 中をくり抜いて、グラタンにするんじゃ……そうじゃろう?」

「あ、はい、そうですけど……」

 思っていたことを言い当てられ、私はどきっとして思わず敬語になる。
 すると友人は、クェックェッと笑い、

「あの日の私もそうじゃった。彼氏もいないくせに、お洒落で素敵なカボチャグラタンをつくろうと、そんなことを考えたんじゃな。……だから、罰が当たった」

「罰……ですか?」

「そうじゃ。……家に帰った私は、早速カボチャを切ろうとした。けど、何かおかしいんじゃ。何が、と聞かれてもよくわからない。しかし、おかしい。おかしいなぁ、これはおかしいなぁ、そう思いながらカボチャのへたを落とそうとする。ピチピチピチピチッ!! そのとき、音が聞こえたんじゃ」

「お、音?」

 突然の大声に飛び上がりそうになりながら聞き返す。すると、

「そう。おかしいなぁ、そう思って辺りを見回したが、誰もいない。一人暮らしで彼氏もいないんじゃ、当然だな。でも、音がする。何かが弾けるような音じゃ。おかしいなぁ、おかしいなぁ、そう思いながらも、私はカボチャを切った。その瞬間!」

 ぎゃああああああああああああっ!

 友人はこの世のものとも思えない声を上げ、

「カボチャが爆発した――その瞬間はそう思った。しかし、違ったんじゃ。カボチャは爆発したんじゃなく、中から弾けるように何かが飛び出したんじゃ! 黄色い汁にまみれた、白っぽいイモムシが――――!」

「ええええっ?」

 今度は私が悲鳴を上げた。

「何、イモムシって何?! カボチャの中からイモムシが飛び出てきたってこと?!」

「そうじゃ」

 友人はゆっくりとうなずいた。そして、

「それがカボチャの内部を巣くっていた、ミバエの幼虫だったんじゃよ。お主もせいぜい気をつけると良い……」

「早苗、ちょっと待ってよ!」

 話を締め、儚げな笑みと共に去って行こうとする友人を、私は叫んで引き止めた。

「わかったって。そんなに言うなら、グラタン、早苗にも食べさせてあげるから! だから、一緒にカボチャ切ってよ!」

「ふふふ……その頼み、引き受けよう」

 彼女はそう言うと、私のアパートの方向へと歩き出した。

 私も彼女も、専門書にバイト代が消える貧乏学生。
 そして、今日のカボチャのグラタンは、久々に食べるまともな食事。
 だからこそ、独り占めしたかったのだが、そんな話を聞かされてはカボチャが怖い。

 しかし、それよりも――私はそんな話をしてなお、カボチャを食べようと思える彼女の食い意地の張りっぷりに、脱帽せざるを得なかったのだった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム