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日本一暑い町

「何か馬鹿すぎるを通り越して、むかついてさえくるんだけど」

 

 下敷きでぱたぱたと顔を仰ぎながら、女子高生が言った。

 

「何なの? 日本一暑い町って。マジでだから何、みたいな。暑いと何かいいことある? 観光客が増える? そんなわけないよね? 涼しいんじゃともかく、暑いところに行こうなんて絶対思わないじゃん?」

 

「だよねー」

 

 こちらも下敷きで風を送りながら、その友人が、

 

「町の名前が全国に知れ渡るのがメリットとか思ってるとか、マジで田舎者の感覚っていうか、ホントだから何なのって聞きたいわ。役場の人が喜んで最高気温の横断幕とか掲げるじゃん? 何が嬉しいの? 何がハッピー? ってか、そう聞いたらあの人たち、何て答えると思う?」

 

「えー、多分、お前らにはわかんないだろうけど、みたいな顔されるだけでしょ、絶対。ってか、お前らこそ何だよってことなんだけどさ。日本一が偉いとか本気で思ってんのかな?」

 

「思ってんじゃない? 喜んでるんだし。奪還するとか息巻いてるし。奪還ってなに? お前ら、いまからガソリン燃やしまくって地球温暖化するの? みたいな?」

 

「奪還したとしても、お前らの手柄じゃねえよ、ただの太陽の加減だよ。お前ら何もしてねえよ」

 

「あ、でも館林市は温度計の設置場所をわざと気温が高いところに設置して、温度を上げてるらしいよ」

 

「まじか、そこまでやるか、館林。うー、それにしても……暑い」

 

 とうとう机に突っ伏した彼女たちが住んでいるのは、埼玉県熊谷市

 

 人間の力ではどうにもならない「真夏の最高気温」というカテゴリで一位を狙う、どうでもいい大人たちの争いのせいで体感温度の上がる、憐れな小市民なのであった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム