読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

神様☆見習い中

 駅前のベンチで、男が一人、ぼんやりと座っていた。

 その目は泣き腫らしたように赤く、行き交う人々の中に誰かを探すような視線は痛々しい。

 と、ふと前を横切った女性に、彼は驚いたように立ち上がり、

 

「香奈?」

 

 その肩を掴んだ。

 しかし、それは人違いだったようで、女性は驚いたような顔をすると、足早に人混みに消えていく。

 男は絶望したように空を見上げ、こうつぶやいた。

 

「神様お願いです、もう一度、もう一度だけ彼女に会わせて下さい――――」

 

 その言葉が終わらないうちだった。

 ハンドル操作を誤ったトラックが駅前に突っ込み――彼を撥ねた。すぐに救急車が呼ばれたが、男は即死。他に怪我人がでなかったことだけが奇跡だと、その日のニュースは報じ、男と別れたばかりだという元彼女が泣き崩れる姿を映し出していた――。

 

    *

 

 その頃、天上では――

 

「ほら、だから言ったじゃないですか! 『彼女』は生きてたんですよ! それなのにホイホイ願いを叶えるからこういうことに……!」

 

 お目付役の老人が、神様見習い中の子供を叱っていた。

 

「いいですか? 人間とは簡単に願い事を口にするもんなんです! 『もう一度彼女に会いたい』って、あたかも相手が死んだみたいな雰囲気でも、実はフラれただけ、なんてのはよくあることなんですから!」

 

「えー、そうなんだ……」

 

 神様見習いがため息をつくと、

 

「そうですよ、だから簡単に願い事を叶えちゃいけないんです!」

 

 老人は言い、

 

「ほら、殺してしまった人間に、ごめんなさいを言いなさい」

 

「……ごめんなさい」

 

「もっと大きい声で!」

 

「ごめんなさい!」

 

 天上に二人の声が響き渡る。

 神様見習いが、神様になるのは、まだ遠い先のことのようであった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム