ズレてますよ

 ズレてますよ、そう言われ、男性ははっと頭に手をやった。

 それを見た講師は、怒ったように手を叩き、、

 

「佐伯さん、手! 手をどけて! ズレてるって言っても、あんたのカツラがズレてるとは誰もいってないよ!」

 

「あっ、はい、そうですね……」

 

 男性が首をすくめる。講師はそこに集まった中年男性たちに向かって、

 

「自信を持って! 誰もがあんたの頭に興味があるわけじゃないよ! ズレてる、取れてる、丸わかり――この程度の単語に反応してちゃ、快適な社会生活は遅れないよ! あんたたち、何のためにカツラ買ったの! 自分に自信を持つためでしょ! カツラをかぶったことによって弱点が増えるのはおかしいわよ、もっと堂々として!」

 

 じゃ、初めからもう一回、と講師が手を叩く。

 その合図に、向かい合った中年男性たちがテキストに沿って会話を始める。

 いずれも「ズレてる」「取れてる」などの単語が散りばめられた会話集だ。

 そうして会話練習をする男性たちを叱咤激励し、講師はそれぞれにアドバイスをしていく。

 

 ここはカツラ順応教室。

 

 一階でアートネイチャーした男性たちに自信をつけ、社会生活に順応させるための、特訓教室なのであった――。

 

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