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おふくろの味

「あ、この味……! この味だよ、お袋の味は! うーん、懐かしいなあ。このトマトの甘み! 子供のころを思い出すよ……お袋は料理上手でさあ、でも俺はこれが一番好きだったなあ。お前、これ、ちゃんと生のトマトを潰してつくったんだろ? スパイスも入れてる? うんうん、そうじゃなきゃ、この味はつくれないもんなあ……これが本物の手作り料理だよ」

 

 満足げな夫の笑顔に、妻もにっこりと笑って見せた。

 

 その後ろ手に持っているものは、カゴメのトマトソース缶だったが、彼女は種明かしをしなかった。

 

 それを手作りと信じ、彼女の「本物の手作り料理」をけなす夫の鼻をへし折る機会は、決していまではないと、そう思っていたからである。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム