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子猫が一匹

「……やはり、ダメだったようだな」

 

 げっそりとやつれた顔で起きてきた男を見て、博士が言った。

 

「ダメだったのは分かるが、研究のためだ。詳細を聞かせてくれ」

 

「はい……」

 

 やつれた男は眠そうに目をこすりながら、

 

「子猫はにゃあにゃあと草にじゃれているだけで、まったく柵を跳び越えてはくれませんでした。それどころか、あっちへふらふら、こっちへふらふら歩くものだから、こちらは心配で心配で……母猫はどこにいるんだ、とやきもきして……」

 

「ふうむ。語呂を合わせるために『猫』ではなく、『子猫』にしたのが悪かったのか……」

 

 博士はメモを取り、首をかしげた。

 

「では、今夜は『子』を取って、ただの『猫』にしてみよう。『猫が一匹、猫が二匹……』だ。わかったね?」

 

「勘弁して下さいよお、博士!」

 

 すると、男は悲鳴を上げた。

 

「お願いですから、今夜は『羊』に戻して下さい。そしたら、明日の夜は『猫』に挑戦しますから。このままじゃ身体が持ちません!」

 

「いや」

 

 しかし、博士は無情にも首を振った。

 

「これは研究だ、そう言っただろう。そのために我々は契約を交わし、相応の金を支払っているはずだ」

 

「そ、それはそうですが、でも……」

 

「今夜は『猫』だ。わかったな?」

 

 博士はそう言うと、踵を返し、白い部屋から出て行く。残された男は絶望的な表情で、「猫、猫か……」と繰り返した。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム