土曜日の匂い

 僕の飼い主は忙しい。

 

 朝、起きると彼女は「らじお」をつけて「ぱそこん」に向かう。

 カチャカチャと音楽みたいな音を立てる。

 しばらく経つと、「らじお」がぽーんと音を立てる。

 そうすると立ち上がり、やっと僕に朝ご飯をくれる。「といれ」のうんちも片付けてくれる。

 そして、また「ぱそこん」に向かう。

 僕が「そふぁ」でお昼寝しても、駆け回って遊んでも、彼女は振り向きもしない。

 でも、僕が膝に飛び乗ると、片手で優しく撫でてくれる。

 

『在宅だから、逆に休みがないんだよね』

 

 彼女は「けいたい」で「ともだち」と話す。

 姿も見えないし、匂いだってしないのに、「ともだち」はそこにいるらしい。

 僕が不思議がってわんわん吠えると、

 

『キャラメルが「しっと」してる』

 

 と言って笑う。でもすぐに、

 

『だから曜日感覚が全然なくてさ。今日、何曜日?』

 

 「ともだち」との話に戻ってしまう。

 僕はふてくされて丸まるうちに、眠ってしまう。

 しかし、すぐに揺り起こされる。

 

『ねえ、キャラメル。今日、「どようび」なんだって。「おまつり」やってるんだって』

 

 行こうか、そう言うと、彼女は僕を抱きかかえてドアを開ける。

 

『あ、ほら見て、あそこ』

 

 背の高い「まんしょん」から見下ろした景色を、彼女は指した。

 賑やかな色と賑やかな匂いが、細い細い線となって僕の鼻に届く。

 わん、僕が吠えると、

 

『早く行きたい? 最近、忙しかったもんね』

 

 忙しいのは最近じゃなくていつもだけど、僕は彼女の腕から飛び降りると、「えれべーたー」に向かった。

 

『ねえ、今度からちゃんとお休みの日をつくろうか』

 

 「えんとらんす」から出ながら、彼女がつぶやく。

 

『ね、そうしよう。「どようび」はお休みの日にしよう』

 

 わん、僕は振り向いて、吠えた。

 

 「どようび」の匂いが、弾けるような色で、笑う彼女を包み込んだ。

 

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タイトル「土曜日の匂い」は山居中次さんからご提案いただきました。ありがとうございました。引き続きタイトル案を募集しています。

 

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