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真っ赤なポルシェ

 視界の端を、真っ赤な車が颯爽と走り抜けていった。

 私は思わず立ち止まり、その後ろ姿をじっと見つめた。

 

「どうしたの?」

 

 と、隣を歩いていた彼が聞く。

 

「真穂って、ああいう車に興味があるの? 意外だなあ。女の人って、車とか興味ない人が多いだろ? だから――」

 

「ううん、違うの! 全然違うの! 興味とかそういうんじゃなくて」

 

 私は大急ぎで首を振った。

 

「え、そうなの? オレ、てっきり……」

 

 少々不満そうに彼が言う。

 

「それとも、前の彼氏の車だったとか?」

 

「そんなわけないじゃん! 変なこと言わないでよ」

 

「……ならいいけどさ」

 

 不審そうな顔の彼に申し訳ないと思いつつも、私はそれを笑顔で誤魔化し、さりげなく話題を元に戻した。

 

 私があの赤い車を目で追った理由。

 それは決して車に興味があるからではない。むしろその反対で、そのことが原因で、私は元彼と別れてさえいるのだ。

 

『あ、もしかしてあれが「真っ赤なポルシェ」ってやつ?』

 

 どこかで聞きかじったその単語を、真っ赤なスカイラインや真っ赤なロードスターに向かって言うたび、元彼は不機嫌になり、最後には、

 

『女ってホント、車のことわかんねえよな!』

 

 そうキレられて、私たちは終わったのだ。

 

 同じ轍を踏んではいけない――私はそう思いながらも、心は未だに「真っ赤なポルシェ」を探すのをやめられない。

 

 それで、赤い車が走っていると、私はついそれを目で追ってしまい――あれが「真っ赤なポルシェ」なのだろうか――答えの出ない幻想に思いを馳せているのであった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム