芋けんぴの秘密

 「芋けんぴ」。

 

 お菓子の西洋化が進んだとはいえ、「芋けんぴ」を知らない人はいないだろう。これは我が高知県の誇る(?)郷土お菓子の一つである。

 

 ところで、「芋けんぴ」。

 改めてこの単語を見て、おかしいな、そう思った方はいないだろうか?

 そう、気づいた方もいるはずだ。

 この「芋けんぴ」という名前。

 サツマイモでつくられていることは周知の通りであるが、それならなぜ、名前に「芋」がつくのか。

 そう。それは「けんぴ」というお菓子が存在するからである。つまり、「芋けんぴ」は「芋でつくられたけんぴ」という意味なのである。

 つまり、「芋けんぴ」は「けんぴ」の偽物だったのである!

 

 ……と、ついつい熱くなってしまったが、では実際「けんぴ」とはどういうお菓子だったか。

 これは、小麦粉と水と砂糖を混ぜて棒状に成形し、焼いたものである。

 まずそう?

 はい、その通り。現代の味覚で言えばまずいことこの上ないだろう。

 しかし、「芋けんぴ」は「けんぴ」ありきのお菓子なのだ。偽物なのだ。

 その事実を踏まえて、「芋けんぴ」は控えめに売り場に並ぶべきである。

 よもや、高知県の名物などと大きな顔をしてはならないのだ!

 

 ……と、再びついつい熱くなってしまったが、由緒正しい「けんぴ」が消えた今、我々は「芋けんぴ」を通してしかその姿を忍ぶことができない。

 けれど、決して忘れないで欲しい。

 「芋けんぴ」の前に「けんぴ」があったことを。

 「けんぴ」のほうが由緒正しいことを。

 すべての道は「けんぴ」に続くことを。

 

 そして――「けんぴ」復興委員長として店を立ち上げたはいいが、倒産し、日陰の身となってしまった私のことを。

 

 ――おっと、玄関に借金取りが来たようだ。

 それでは、みなさん、よい一日を。……「芋けんぴ」なんて糞食らえだ!

 

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