たまごのちーさん

 たまごのちーさんは、白い鶏卵の妖精である。

 スーパーの鶏卵パックにはたくさんのちーさんが住んでいて、誰かに買われるのを待っている。

 

 ただ待っているだけではつまらないので、ちーさんたちは遊んだりもする。

 鬼ごっこやかけっこ、かくれんぼは定番の遊びだが、最近は鮮魚売り場のたまごの妖精、ふぃーさんと仲がいい。

 けれど、ふぃーさんは一日二日で売れていくか、廃棄されてしまうので、ちーさんたちはとても悲しい。

 

 ちーさんたちが遊んでいる間に、鶏卵パックは売れてしまうこともある。

 そうすると、売れてしまったたまごに住んでいたちーさんは、売れ残ったたまごに住むようになる。

 だから、遊んでばかりいると、一つの鶏卵パックにたくさんのちーさんがすし詰めになってしまうときもある。

 けれど、ちーさんたちはさみしがり屋なので、それはそれでとても楽しい。

 また、たくさんの楽しいちーさんが住む鶏卵の鮮度は落ちず、黄身も白身も、いつまでもぷりぷりのままだ。

 

 そんなちーさんたちには、恐れている曜日がある。

 それは金曜日。たまごの日である。

 その日になると、白い鶏卵パックは100円に値下げされ、たまごは飛ぶように売れていく。

 そうなると、ちーさんたちは遊ぶ暇もないので、不満げな顔のまま売られていくことになる。必然、鶏卵の鮮度も少し落ちる。

 特売の日にたまごを買うという行為は、値段と引き替えに鮮度を犠牲にしていると思ったほうがいい。

 

 それから、もし、あなたがご機嫌なちーさんのぷりぷりたまごが欲しいと思うなら、もう一つ気をつけなければいけないことがある。

 それは、赤い鶏卵パックの存在だ。

 

 赤い鶏卵パックは、白い鶏卵パックよりもお値段が張る。

 けれど、たまごの赤と白の違い、これはニワトリの品種に由来するもので、中身の美味しさには関係がない。

 だというのに、赤い鶏卵が優遇されているこの状況に、ちーさんたちは大変ご立腹だ。

 赤い鶏卵パックが隣に並べられていて、その上、白い鶏卵パックよりも売れているとなると、ちーさんたちのご機嫌は最大限に悪くなっていると思っていい。

 

 さらに、赤い鶏卵パックが売り切れた売り場を見て、買い物に来たおばちゃんなんかが、

「仕方ないわねえ、白い方を買いましょうか」

 などとつぶやいたが最後、ちーさんたちは爆発する。

 帰宅して買い物袋を覗いたとき、たまごが割れていることがあるのは、そのせいだ。

 

 しかし――これは私からのお願いだが――割れてしまったたまごを見ても、決してそのことを怒らないであげて欲しい。

 ましてや、

「やっぱり白いたまごは弱いわね」

 などと、ため息をつかないでほしい。

 

 割れてしまったたまごの影で、ちーさんは泣いている。感情のままに爆発し、大切なたまごを傷つけてしまったことを心から後悔しているのだ。

 だから、あなたがするべきことは、そのたまごを捨てずに調理し、食べてあげることだ。

 そうすれば、ちーさんはとても喜ぶ。そして、そのたまごの栄養価は、通常よりも上昇する。あなたにとっても悪い話ではないだろう。

 

 さて、ここまでたまごのちーさんの解説をしてきたが、最後にもう一つだけ。

 

 ちーさんが好む調理法は、いま流行のエッグ・ベネディクトである。

 イングリッシュ・マフィンにベーコン、オランデーズソースが本格的であればあるほど、ちーさんの機嫌はよくなり、栄養価は最大限まで上昇する。

 あなたがニューヨーカーなら、もちろん、限界を超えて倍増する。ニューヨーク発祥の料理をニューヨーカーが食べてくれた、とちーさんは感激するのである。

 

 このように、意外とミーハーなちーさんだが、彼らのツボを知り尽くし、さりげなくご機嫌を取るのが攻略の一手でもある。

 今後とも是非、食卓にて、ちーさんをうまく役に立てていただきたいものだ。

 

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