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モテない理由

 お揃いの限定アイドルグッズを手に、30代らしき男が二人、店から出てきた。

 と、その一人がふと気づいたように、

 

「そういえば、お主は気づいてござったか?」

 

「何を、でござる?」

 

「道行く女性の『ふぁっしょん』でござるよ」

 

 首をかしげた友人に、男はちらと目配せした。

 

「ほら、あの女性もこの女性も、でござるよ。みんなシャツをスカートにインしてるでござる」

 

「むむ?」

 

 見ると、男の言うとおり、楽しそうに道を行く女性たちは、皆、シャツをスカートやズボンのウエストに仕舞っている。

 友人は、

 

「……こ、これは奇異なり! 拙者らの頃は、シャツは外に出すものと相場は決まって……?!」

 

 顔の前に両手を広げ、大げさに慌てた友人に、男はふふん、と余裕の笑みを浮かべた。

 

「後藤殿。これが『流行』というやつぜよ。拙者たちの頃とは、時代が変わってしまったんじゃ」

 

「な、なんと恐ろしい……」

 

 友人はつぶやき――何を思ったか、にやっと笑った。そして、

 

「しかし、佐藤殿。いくら『流行』といえども、シャツは出すか入れるかの二択。いまはシャツ・インが流行っていても、いずれは再びシャツ・アウトの時代が来るでござる」

 

「二択?」

 

 すると男は不敵の笑みで首を振り、一人の女性を指さした。

 

「いいや、後藤殿。あれを見るでござる。あの女性は、一見シャツ・インでござるが――」

 

 女性が通り過ぎていく。その後ろ姿を見送った友人は驚愕した。

 

「な、なにっ? 前シャツ・インからの後ろシャツ・アウトだと?!」

 

「そうでござる」

 

 男はうなずいた。

 

「シャツはインかアウトの二択にあらず。前シャツ・イン、後ろシャツ・アウトも技法は既に編み出されていたのだ……ということはつまり――」

 

「前シャツ・アウト、後ろシャツ・インすらも――いや、右サイドシャツ・イン、左シャツ・アウトということすらあり得ると? そんなバカな……」

 

「『ふぁっしょん』にルールはないのでござるよ、後藤殿」

 

 男が静かにそう告げる。

 

「さようでござるな……これは拙者の完敗でござる。わかり申した、次の限定グッズは佐藤殿に優先権を譲るでござるよ」

 

 負けを認めた友人がそう言うと、

 

「ハッハッハ、いや、拙者もいま気づいたところ。限定グッズに関しては、正々堂々の勝負でござる」

 

「よろしいのか、佐藤殿」

 

「もちろんだとも、後藤殿」

 

 さあ、いざゆかん――楽しそうに駆けだした男たちに、女性たちは気味悪そうな視線をやった。

 彼らにとって、流行のシャツの入れ方がどうでもいいように、彼女たちにとって、あの奇妙な「ござる」しゃべりが戦国をモチーフとしたアイドルファンのたしなみであることなど、本当にどうでもいいことだったからである――。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム