月代

「なあなあ、初対面の人間がどんなやつかわかる質問を思いついたよ」

 

「へえ、どういうのだい?」

 

 大学生の友人に、男が聞き返す。すると友人は『月代』と、ノートに書いた熟語を見せ、

 

「これを何と読むかで、そいつの人間性がわかるんだ。

 まず、一、「さかやき」と読んだやつ。これは、ちょんまげ結ったときの毛のない部分ことらしいが、こういうやつは、受験で張り切ったガリ勉タイプだな。

 二、「つきしろ」と読んだやつ。こいつは極度の文学オタクだ。島崎藤村の「夜明け前」の一文だと言い出したら、オタク確定だな。文芸サークルへの入部を勧めておくといい。

 それから、三、「つきよ? クラスにいたっけ、そんな女子?」とか言い出すやつ。これは一番普通の反応だな。ノリが良く、いい友達になれるタイプだ。

 さあ、お前はどのタイプだ?」

 

 そう言われ、男は少し考えた。それから、

 

「……俺も「つきよ」って読むかなあ」

 

 と答える。すると、友人は満面の笑みで男の肩を叩いて、

 

「さすが俺の友達だな!」

 

 と、言い、他の友人にも同じ質問をしようと去って行った。

 その後ろ姿を見ながら男は、

 

(俺は、四、空気が読めるタイプだな)

 

 と、さきほどの授業で「月代」が読めなくて恥をかいた友人を、優しく慮ったのだった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム