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死ねばいいのに

「――で、慌ててブレーキを踏んだんだけど、ブレーキがきかなくて、パニックになって、『死んじゃう!』って叫んだんだって。そしたら、ふっと耳元に吐息を感じて……」

 

 美和ちゃんはそこで声を潜めて、

 

「『死ねばいいのに』――って、女の人の声が聞こえたんだって」

 

「うわあ、怖っ!」

 

 加世ちゃんが声を上げる。

 修学旅行の夜。

 私たちは就寝時間を無視して、怪談で盛り上がっていた。

 と、青ざめた杏奈ちゃんが、

 

「え、で、車は?」

 

「トンネル抜けた途端、やっと止まったらしいよ」

 

 もっともらしく美和ちゃん。

 

「怖い……」

「やだあ……」

「やっぱ心霊スポットってやばいよね」

 

 口々に言いながら、肩を寄せ合う。

 私はみんなと同じく怖がる振りをしながらも、胸の中は違うことを考えていた。

 

 それは、披露する怪談の内容。

 

 順番で言えば、次は私が話す番だ。

 実は、クラスで目立たない私は、友達と言える友達がいなかった。

 小学校時代、いじめられていた私は、人間関係に臆病になってしまったのだ。

 だから、修学旅行の班も、美和ちゃんたち仲良し五人グループに入れてもらう形で、先生が決めた。

 

 私が班に入ると決まったとき、優しい美和ちゃんたちは口では何も言わなかったけど、内心面白くないと思っているに違いなかった。

 誰だって、仲良しグループだけで班をつくりたいものだ。その気持ちはわかる。

 

 けど、私にとって、これは降って湧いたチャンスだった。

 ここでとびっきり怖い話をして、みんなと打ち解ければ、クラスでひとりぼっちなんてこともなくなるかもしれない。

 仲良し五人グループが、六人グループになるかもしれない。

 

「次は優実ちゃんの番ね」

 

 美和ちゃんが言う。

 ほんの少しではあるが、期待の目が私に向けられる。

 

「えっと、これは実話なんだけど……」

 

 胸の高鳴りを抑えて、私は話し始めた。

 

 怪談なんて知らないけれど、みんなの話を聞いて、ツボは心得たつもりだ。

 それにさっきの美和ちゃんの話で、私は完全に何を話すべきか、方針を決めていた。

 

「小学校のとき、学校に行くと、机の上に花瓶が置いてあったの。差してあったのは、菊の花。お葬式の花ね。実は、去年その机を使ってた子は、マラソン大会の練習中に倒れて死んじゃった子でね、その机は処分されたはずなんだけど、どうしてか教室に戻ってきてて……」

 

「えー怖い」

 

 杏奈ちゃんがつぶやく。

 他の子たちも、固唾を呑んで私の話を聞いている。

 私はうれしくなって、

 

「先生も気づいてるはずなんだけど、何も言わなかったのね。それで、私がそこに座れって言われて」

 

「え? それでどうしたの?」

「まさか、座ったとか?」

 

「うん、座ったの。そしたらね――」

 

 さっき美和ちゃんがしたように、私も声を潜め、

 

「席に着いた途端、『死ねばいいのに』って、みんなが――先生までもが一斉にそう言ったんだ」

 

「そう……なんだ」

 

 自信満々のオチをつけた私に、美和ちゃんたちは何だか微妙な顔をした。

 そして「怖かった?」という私の問いに答えることもなく、申し合わせたように布団に潜り込む。

 私がおろおろしていると、ややあって、

 

「……死ねばいいのに」

 

 しん、とした部屋に、くぐもった五人の声が響いたのだった。

 

【1分で読める超短編小説集】(山野ねこ) - カクヨム